今後の課題は、なぜそのように進化したかを解明することだ。ケルナー氏は「食事がすべて」と考えている。まだ確かな証拠はないものの、ほかの獣脚類の恐竜はほとんどが肉食であるなかで、この恐竜は植物食だった可能性があるというのがケルナー氏の予想だ。
「肉を切り裂く必要があったのであれば、なぜ歯を失うのでしょう?」とケルナー氏は問い掛ける。「これは適応です。過去のある時点で、ある祖先が、持っていた歯を失ったのです」
しかし、ケルナー氏のチームメンバーも含め、すべての人が賛同しているわけではない。同じブラジル国立博物館の研究者である今回の論文の著者であるジョバネ・アルベス・デ・ソウザ氏は、ベルタサウラが何を食べていたかを確定するのは時期尚早だと考えている。ベルタサウラは雑食性で、現代のカラスのように、くちばしで肉を引きちぎることができたというのがアルベス・デ・ソウザ氏の予想だ。「歯がないだけでは、食性の裏付けにはなりません」
古代の動物の食性を調査する際、科学者たちが頼る手法がいくつかある。その一つが、歯の化石に付着した食物の安定同位体を調べるというもので、ベルタサウラの場合は不可能だ。頭蓋骨の精密な3次元(3D)モデルをつくり、餌をかんだり、引き裂いたり、砕いたりする動きを確認するという方法もある。しかし、ベルタサウラの骨は関節がない状態で発見されたため、こちらも不可能だ。
「想像していなかったことなので、解明する必要があります。中南米で初めて見つかった、歯のない恐竜ですから」とケルナー氏は話す。

研究チームはベルタサウラを発見した場所からさらなる手掛かりが見つかることを期待している。
「翼竜の墓」と呼ばれる一帯は、白亜紀には砂漠だった場所だ。翼竜、トカゲ、別の獣脚類などが発見されており、どれも驚くほど無傷の化石が出土している。ケルナー氏はこうした素晴らしい保存状態について、恐竜たちが死んだ後に何度か起きた自然現象によるものだと考えている。
「多くの翼竜とそれより少ない恐竜がいて、やがて死に絶えたと私たちは想像しています。そして、砂漠ではあり得ることですが、鉄砲水が何度か発生し、動物の死骸など、通り道にあるものすべてを盆地まで押し流し、そこにたまって保存されたのだと考えています」
ケルナー氏をはじめとするチーム全員がこの場所でさらに発見を重ね、ベルタサウラの詳細を明らかにしたいと考えている。しかし、現在のところ、発掘調査の再開はパンデミックに加えて、資金の問題にもはばまれている。
ブラジル国立博物館は18年9月に壊滅的な火災に見舞われ、今も再建中だが、ケルナー氏らは同じリオデジャネイロにビジターセンターをオープンしようと準備を進めている。ベルタサウラの化石、3D模型などを展示し、誰でも間近で見られるようにする予定だ。
「新しい恐竜の発見は、人々に科学を身近に感じてもらえるよい機会になると感じます」とケルナー氏は語る。「私たちの国には、重要な(化石)堆積物がたくさんあります。この恐竜が発見された場所だけではありません。今、私たちが必要としているのは、現場に戻って研究を続けるための支援です」
(文 JILL LANGLOIS、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年12月20日付]