2021/10/9

積み重なる技術的な課題

コロッサルの最終目的は、十分な数のカギとなる遺伝子を操作して、マンモスのように北極圏の寒さに適応する「代用」種のゾウをアジアゾウから作ることだ。

ケナガマンモスとアジアゾウが別の種に分かれたのは600万年前だが、大英自然史博物館のヘリッジ氏によると、2種のDNAは99.9%以上同じだという。だが、ゾウのゲノムだけでも30億塩基対もの長さがあるため、わずか0.1%以下といってもその違いは膨大な数に上る。科学者たちは、操作すべき遺伝子をそのなかから探し出さなければならない。

現在コロッサルのチームは、脂肪の蓄積、寒い環境で酸素を維持する血液の機能、マンモスのトレードマークである厚い毛皮に関わる遺伝子など、60個以上の遺伝子に着目している。

また、マンモスの遺伝子をアジアゾウのDNAに挿入するときには、多くの遺伝子を一度に改変する必要がある。この点に関してチャーチ氏の研究室では、別の動物を使って研究を重ねてきた。これまでに、ブタの臓器を人間への移植に利用するため、「クリスパー・キャス9(CRISPER-Cas9)」と呼ばれる遺伝子編集技術を使って、ブタのゲノムを数十カ所1度に改変することに成功している。

最大の懸念は、そうやって作った受精後まもない胚をどう育てるかだ。アジアゾウは絶滅危惧種であるため、コロッサルは代理母を使わず、人工子宮の開発を検討している。

ヒツジを使った過去の実験では、人工子宮で4週間まで胎児を維持させることに成功している。マウスでは、5日目まで発達した胚を6日間維持できることも示された。しかし、どんな哺乳類でも胎児を臨月まで人工子宮で育てた例はない。

コロッサルは、それを世界で初めて現生のゾウでやり遂げようとしている。ゾウの妊娠期間は2年近くにも及び、生まれてくるゾウの体重は90キロ以上ある。

倫理的な問題も山積み

動物を使った実験は何であれ、倫理的問題に直面する。しかも、ゾウは寿命が長く、高い知能を有し、複雑で数世代にわたる母系社会を形成している。

古代のマンモスに関する研究では、マンモスにもゾウとよく似た社会的特徴があったことが示されている。では、初めて誕生するマンモスとゾウのハイブリッドは、どのように扱い、交流させればよいのだろうか。将来形成されるであろうハイブリッドの群れは、北極圏でどのようにして生きることを学び、マンモスのような自分たちの文化を一から作れるというのだろうか。

コロッサルとジモフ氏は、もしハイブリッドゾウが誕生したあかつきには、更新世パークでその何頭かを受け入れるという非公式の約束を交わしている。現在は20平方キロの狭いパークだが、いずれは144平方キロまで拡大する予定になっている。

また、コロッサルのビジョンを完全に実現させるとなると、広大な北極圏のツンドラをゾウが暮らせる場所に戻さなければ、世界の気候に影響を与えるまでには至らないだろう。

しかしそのためには、土地使用の問題、既存の野生生物への影響、世界的なガバナンス、そしてロシアの北極圏に暮らすおよそ18万人の北方先住民への影響など、検討すべきことは山のようにある。

(文 MICHAEL GRESHKO、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年9月15日付]

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