
炭素と歴史が詰まった泥炭地
泥炭は非常にゆっくりと蓄積し、数千年かけて徐々に成長していく。ボルネオ島の泥炭地の起源が4万7800年前に遡ることを示した研究もある。沼地は、花粉や種子、古代の陶器、人体まで、さまざまな物をよく保存することでも知られる。
そして、泥炭地の植物は、大気中の二酸化炭素(CO2)を大量に隔離・貯蔵する。なぜなら、湿地の環境では植物が完全には分解されないからだ。
森林のようにより乾燥した環境では、枯れて地面に落ちた植物は酸素やバクテリア、菌、昆虫によって分解され、内部に蓄えていた炭素と栄養分をすべて放出する。一方、泥炭地のような環境では、酸素や栄養分が少なく、酸性度が高いうえ、分解者も存在しないか、非常に少ない。分解されなかった植物性物質は年々蓄積され、圧力と泥炭の厚みは増し、内部に蓄えられる炭素の量も増えていく。


数千年がたつうちに、そこは泥炭地となり、さらに数千万年がたつうちに、適切な条件が整えば、化石化して石炭になることもある。
「石炭はもともと泥炭でした。だから内部に大量の炭素が含まれているのです」と、国際泥炭地協会のジャック・リーリー氏は言う。
数十年かけて炭素を蓄える木々と同じように、泥炭地では、炭素がぎっしりと詰め込まれた泥炭が湿地の中に沈んでいる。長期に及ぶ自然の干ばつや、農業をするために水抜きをすることで泥炭地が劣化すれば、そうした高密度の炭素はCO2として一気に大気中に放出される。
「泥炭地は気候にとって非常に良い働きを持っていますが、劣化した場合は厄介です」と、カークブリート=ハーマンズ氏は言う。「泥炭地からは、英国のすべての森林に蓄えられているよりも多くの炭素が放出されます。だからこそ、早急に泥炭地を復元する必要があるのです」
泥炭地は近年、気候変動に対処するための強力なツールとして認識されるようになってきた。森林を管理し、土壌の健康を保つことと同様に、泥炭地を維持し、可能な限り復元することは、世界が気候変動を緩和する方法のひとつと言われている。