
南米最南端に位置するフエゴ諸島(ティエラ・デル・フエゴ:火の大地の意)は、アンデスの山並みと青く澄んだ湖で知られる、旅人にとって憧れの地だ。しかし今、環境保護の要として注目を集めているのは、この雄大な山々の麓に広がる「泥炭地」だ。
ティエラ・デル・フエゴの泥炭地は、実のところ多くの役割を担っている。生物たちの住み家であり、巨大な貯水池であり、また大量の炭素を蓄える貯蔵庫でもある。
泥炭地は、気候変動に対抗できる可能性を秘めている一方で、かき乱されれば逆に気候変動を加速させることになる。国際自然保護連合(IUCN)によると、泥炭地は世界の陸地のわずか3%を占めているにすぎないが、土壌に含まれる炭素の30%を蓄えているという。
ティエラ・デル・フエゴの泥炭地は、大半が手付かずのまま残ってはいるものの、さまざまな脅威にさらされている。たとえば、観光道路の建設計画、泥炭地に穴を掘るビーバーなどの外来生物、泥炭地を守るための法的保護の欠如などだ。


フエゴ島の東、ミトレ半島にある泥炭地は、南米最大かつアルゼンチンの泥炭地の84%を占める「世界の果ての泥炭地」だ。ティエラ・デル・フエゴ議会は2022年、この半島に自然のまま残されている広さ2400平方キロメートルの泥炭地の保護計画について採決を行う。
泥炭地をはじめとする湿地は、印象が地味なためか、保護すべき対象としての注目が集まりにくい。今から51年前、湿地を守るためにラムサール条約(湿地の保存に関する国際条約)が採択されたものの、1971年から2021年にかけて、世界の湿地はさらにその3分の1が失われた。
2月2日の「世界湿地の日」は、ラムサール条約を記念して設置されたものであり、今年は湿地を守るために財政的、政治的、人的資本を投入するなどの行動を起こすことがテーマとなった。
「泥炭地は一般に、寒々しく恐ろしげな場所と考えられています。強い風が吹き、雨もよく降ります。しかし、実際に植生を観察すれば、そこがとても美しい場所であることに気づくでしょう」と、英国のIUCN泥炭地プログラムに携わる専門家レネー・カークブリート=ハーマンズ氏は言う。