日経ナショナル ジオグラフィック社

2022/3/13

毛は主に衣料品になるが、毛布や家庭用品に使われることもある。ペルーは2021年の1~7月にかけて、アルパカの輸出でパンデミック(世界的大流行)前の19年と同等の約1億2100万ドル(約116億円)を稼いだ。主要な輸出先は中国、イタリア、米国だ。

「最善策を探し続けています」

近年、科学者、飼育者、活動家などがアルパカを支える方策を検証している。これはアルパカを飼育しているラグニージャスのようなコミュニティーを救うことにもつながる。プーノ県に本部を置くINIAキムサチャタ研究生産センターでは、カルデナス氏のチームが遺伝学的なプロジェクトに取り組む。約3200頭のアルパカを使い、現存する毛色が消滅しないよう、色の付いたアルパカの遺伝子を残そうとする試みだ。また、アルパカが高地の気温上昇に適応し、標高が低い場所でも繁栄できるよう、さまざまな手法の開発を進めている。

「気候がおかしくなり、不安定になったため、いろいろな問題が発生しています。牧草が弱くなったことによる栄養上の問題に加え、気候変動に起因する寄生虫の問題にも対応しています。高地では以前は存在しなかったダニやシラミ、ツツガムシが増えています」

アルパカは標高が低い場所でも生きられる。オーストラリアや米国で飼育されているのがその証拠だ。ただし、被毛が粗くなってしまう。また、温暖な場所では、アルパカが高地にはない病気にかかる。

新型コロナウイルスのパンデミック中、ペルーでは国境封鎖と渡航制限の措置が取られ、アルパカの毛を使った手工芸品の市場が崩壊した。観光客の減少によって最も大きな影響を受けたのは、手工芸品を売る職人たちだ(PHOTOGRAPH BY ALESSANDRO CINQUE)

INIAはコミュニティーと連携し、アルパカを保護できる小屋の建設や、乾期の餌を補うクローバーのような飼料作物の栽培など、ローテクな解決策も模索している。ペルー農業省は20年、アンデス山脈のコミュニティーに2300の家畜小屋を導入する3年計画を立ち上げた。

飼育者たちも解決策に取り組んでいる。十分な土地がある飼育者は、牧草地を求めてさらなる高地を利用している。一族で500頭のアルパカを飼育しているアリーナ・スルキスラ・ゴメス氏(35歳)の場合、雨期には標高約4300メートルの土地に放牧し、雨期が終わり、牧草が黄色くなり始めると、少しずつ高地へと移動していく。牧草地を求めて標高5000メートルを超えたこともある。

ラグニージャスのクリスティーナ・コンドリ氏(49歳)は雨期の降水を頼りに200頭のアルパカを飼育してきた。現在、コンドリ氏の家族は伝統のやり方で土の水路をつくり、小さな池に水をためている。そして、水が出るところには井戸を掘っている。「私の家族は解決策を見つけようと努力しています。これが私たちの生活の糧であり、何世代にもわたって行ってきたことだからです」

毛を刈られるアルパカ(PHOTOGRAPH BY ALESSANDRO CINQUE)
雨期になると、アルパカにジャケットを着せて寒さから守る。そして、標高が高い場所に群れを移動させる。山の下部にある牧草地を、雨期が明けてから使用するためだ(PHOTOGRAPH BY ALESSANDRO CINQUE)

伝統的に、アルパカは草原を自由に歩き回ってきた。しかし今、キコ氏のコミュニティーは初めて柵を設置しようとしている。アルパカが草を食べる場所を管理し、牧草地に回復の機会を与えるためだ。キコ氏は南京錠のかかった小さな教会の階段に立ち、遠くの山々を見上げた。氷河の後退により、山肌がむき出しになっている。

「もちろん気候変動は不安です」とキコ氏は語る。「しかし、私たちは適応するためにできることをしています。私たちはいつも最善策を探し続けています」

気候変動の影響で、良い牧草地が見つかりにくくなったため、年に4度も山を往復し、群れを移動させているアルパカ飼育者もいる。季節ごとの移動中、家族で最長3カ月にわたって家を空ける(PHOTOGRAPH BY ALESSANDRO CINQUE)

(文 LUCIEN CHAUVIN、写真 ALESSANDRO CINQUE、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年2月12日付]