空の旅は変わるのか 脱炭素目指す航空技術の最前線

2021/10/3
ナショナルジオグラフィック日本版

オランダのデルフト工科大学で風洞実験中の「フライングV」。斬新な設計を採用した航空機で、従来型より燃料効率が2割向上すると期待される(PHOTOGRAPH BY DAVIDE MONTELEONE)

旅客機は環境負荷を減らすことができるのか――。ナショナル ジオグラフィック10月号では、二酸化炭素(CO2)を排出しないゼロエミッションを可能にする旅客機について考察する。

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地上で炭素削減に貢献する技術はいろいろあるが、数百人を乗せて成層圏まで上昇し、何千キロも移動する際には、現時点ではまったく役に立たない。しかも一度も飛行機に乗ったことがない人の割合は世界の全人口の8割を超える。

航空会社や航空機メーカーが空の旅の脱炭素化に取り組むときに直面する問題のなかで、これは最も重要なポイントとなる。航空機による環境負荷を減らすことは可能だが、地上の輸送手段のように、短期間で一気に変革することはできない。だが航空業界のイメージと収益の確保のためには、対応は待ったなしだ。航空機は気候変動を引き起こす要因として、環境保護論者から目の敵にされている。成果を出すのに時間がかかれば、空の旅をすること自体が倫理にそむくことになるのではないかと、利用者が二の足を踏むことも考えられる。

「絶対にやり遂げなくてはなりません」。そう言うのは、米国に拠点を置くバイオ技術会社ランザテックで最高経営責任者(CEO)を務めるジェニファー・ホルムグレンだ。同社は廃棄物などを原料に、従来のジェット燃料に代わる航空燃料をつくり出そうと、開発を進めている。「このまま化石燃料で飛行機を飛ばすわけにはいかない。その点は誰も異論はありません。ただ解決の決め手がないんです」とホルムグレンは語る。

確かに、航続距離と時間を制限した分野では、ゼロエミッションのバッテリー電源を使った電気エンジンは、すでに実現しつつある。そうした電動航空機をいち早く導入するのは、小型機で短距離輸送を行う航空会社になるだろう。

けれども、巨大なボーイング747型機を米国ニューヨークから英国ロンドンまで飛ばせるだけのバッテリーはない。交通工学の専門家団体「SAEインターナショナル」で航空宇宙関連の標準規格を担当するデビッド・アレグザンダーの試算では、ジャンボジェット機を浮上させるのに必要な電気は、ノートパソコンのバッテリー440万個分。重さは機体の7倍にもなるため、バッテリーを積んだジャンボジェットは地面から1ミリも浮くことはできないという。最も高性能のバッテリーでも、重さに対するエネルギー量は従来の液体燃料に遠く及ばない。

航空業界の名誉のために言っておくが、ジェット機が登場してからは、旅客機による環境負荷は年々小さくなっている。最新世代のジェット旅客機は、かつてのものに比べて燃料効率は2倍で、排ガスは数倍きれいになっている。ただこうした改善も、航空輸送量の増大に打ち消されるのが現実だ。平均すると、航空機から排出される炭素が気候変動に関与する量は、減るどころか増えているのだ。

ここで冒頭の「8割超」という数字、すなわち飛行機に乗ったことがない人々の割合が登場する。これは米国の航空機メーカー、ボーイングがはじき出したもので、航空業界でよく引用される数字だ。業界からすれば未開拓の市場であり、コロナ禍が終息すれば、航空輸送量は以前のように年に5%程度の成長が再開すると期待を寄せている。料金が手ごろになれば、全人口の8割超という非常に多くの人々が、空の旅によって、少し前には想像もできなかった発見やつながりを得られるようになるのだ。

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画期的な燃料の登場
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