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『ザ・ビートルズ:Get Back』 監督の遊び心随所に

『ザ・ビートルズ:Get Back』の見どころ(後編)

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NIKKEI STYLE

日経エンタテインメント!

映画『ロード・オブ・ザ・リング』などで知られるピーター・ジャクソン監督が、1969年のビートルズを当時のフィルムを使って描いたドキュメンタリー『ザ・ビートルズ:Get Back』が、定額制配信サービス「ディズニープラス」で配信中だ。前編では3部構成の合計時間が7時間50分にも及ぶ作品を、ビートルズにそれほど詳しくない人でも楽しめるような基礎知識と見どころを、ビートルズ研究家の広田寛治氏が解説した。後編では広田氏ならではの少しマニアックな視点から作品を見ていく。

◇  ◇  ◇

長編ドキュメンタリー3部作として完成した『ザ・ビートルズ:Get Back』のパート1を見始めて最初に気になったのが、セッティングが始まったばかりのがらんとしたスタジオの片隅に、クリシュナ教の教徒らしき人物がポツンと座っていたことだ。

しばらくしてポール・マッカートニーがスタジオにやって来ると、すでにスタンバイしていたジョン・レノンが「あのジジイは誰だ?」と尋ね、ポールが「でもクリーンだ」と返す。そのタイミングでその人物が、当時ジョージ・ハリスンが関心を寄せていたクリシュナ教徒の友人シャムスンダー・ダスであることが字幕で知らされる。セッション開始直前のとても意味深なプロローグだ。

ピーター・ジャクソン監督はこのやり取りを、作品冒頭のショートヒストリーで見せたビートルズの初主演映画『ハード・デイズ・ナイト』のシーンとリンクさせている。クリシュナ教徒は本編とはさほど関係のない人物なのだが、あえてそれに絡めて伏線を張り、熱心なファンをうならせているのだ。

52年前を記録した映像であるにもかかわらず、まるでサスペンス映画のようなミステリアスなオープニングシーンで、さらにそこでマニアの笑いも取ろうとする。これは監督自身もビートルズを細部まで知り尽くしたビートルズマニアだからこそできたことだ。このドキュメンタリーにはこうした仕掛けが随所にはりめぐらされており、それを見つけ出すこともマニアにとっては大きな楽しみと言えるだろう。

黄色い水仙の謎

パート1の映像では、がらんとしたトゥイッケナム・フィルム・スタジオにセットされたドラム台の上に、セッション開始翌日から黄色い水仙が飾られている。だだっ広いスタジオの殺伐とした空気を和らげようと、誰かが置いたのだろうか。

気になって調べてみると、黄色い水仙はゲット・バック・セッション初日の1月2日の誕生花で、花言葉は「もう一度愛して」「私の元へ帰って」だという。くしくもこのドキュメンタリーのタイトル「Get Back」を象徴する花だったのだ。

この花を用意したのは誰なのか。その人物は黄色い水仙に付与された意味を知っていたのだろうか。こんなステキな発想ができるのはやはり前衛アーティストのオノ・ヨーコだろうか、いや心優しいロード・マネージャーのマル・エヴァンズがそれと知らずに準備したのかもしれないなどと、画像を止めてしばし想いを巡らせてしまった。

黄色い水仙の送り主は、パート2の冒頭で明らかになる。ジョージ脱退後の最初のセッション予定日の1月13日、リンゴ・スターとスタッフらが善後策を協議しているときに、ジョージ宛にクリシュナ教の関係者から黄色い水仙の花束が届くのだ。となると、セッション2日目から置かれていた黄色い水仙も、ジョンに「ジジイ」と呼ばれたクリシュナ教のジョージの友人が持参してジョージに贈ったものだったのだろう。

黄色い水仙もやはり監督が「編集」で注目させたもので、冒頭でクリシュナ教徒をあえてクローズアップすることで、ジョージの当時の立ち位置を示唆し、ジョンが言葉遊びでよく使うダブルミーニング的な二重の伏線をはったものだったのだ。

監督が仕込んだこうした仕掛けはほかにもいくつもある。どうでもいいようなことに思えるかもしれないが、このドキュメンタリーには、4人が使っていたさまざまな楽器、マイク、アンプ、スピーカー、ストラップ、日々異なる4人のファッション、さらには彼らが使っているティーカップやグラス、提供される朝食やアルコール類、彼らが愛用するたばこや葉巻、果てはスタジオに持ち込まれている雑誌や新聞などなど、ビートルズを深堀りすることで60年代という時代や音楽を「研究」しているマニアたちにとっては、目をクギ付けにする映像があふれているのだ。

ビートルズの時代は映像で記録することがまだまだ特別なことだったため、彼らのレコーディング・シーンやそれに関連する映像はほとんど残されていない。それ故にこのドキュメンタリーは、フィルムの1コマ1コマに刻まれたすべての存在物に対して、さまざまな深読みをさせてしまうほどの奥深さを秘めた作品ともなっているのだ。

69年9月から11月に世界を駆け巡り、ファンを驚かせ、そして笑いに包んだ「ポール死亡説」のような、"ビートリー"な遊び心が、このドキュメンタリーの随所に埋め込まれていることを予感させるのだ。

黄色い水仙とジョージの「アイ・ミー・マイン」

欧米では、ギリシャ神話に登場する美少年ナルキッソスが死んだあとに、水仙の花が咲いたことから、水仙を「ナルシス」と呼ぶようになりナルシシズムの語源になったとも言われている。そして、水仙全般の花言葉は、Self-Love(自己愛)、Egotism(自己中心)、Unrequited Love(報われぬ恋)となったのだという。

ジョージはこのセッション中に「アイ・ミー・マイン」を作曲して披露している(パート1)。この曲は自己主張ばかりするポールを歌った曲だと解釈されていた時期もあったが、ジョージによれば「自分の中にある利己心を嫌悪し」「自分とは何者か」を考え続けているなかで生まれた曲だったという。

10日に脱退を宣言し(パート1)、20日に復帰した(パート2)ジョージが、それ以降、ピタリと「自己主張」を封印しているのにも注目したい。おそらくは深い意味もなく置かれていた黄色い水仙だろうが、監督の仕掛けによって、その意図も超えて、このプロジェクトの象徴であるとともに、あたかもジョージの人生観を象徴する花でもあったかのように思えてくるのだ。

4人それぞれの視点から見えてくること

このドキュメンタリーのパート1の中盤に4人が半ば本気で「離婚」(=バンドの解散)について語るシーンがある。このセッションを始めたことで、前作『ザ・ビートルズ』(68年発表のホワイト・アルバム)で生まれたグループの亀裂と危機が、何も変わっていないことをこの時点で再確認しているのだ。

パート2、パート3と進むにつれ、確かにビートルズはバンドとしてのまとまりを取り戻していったかのように見える。とりわけジョンとポールの視点に立てば、絆はいつになく高まっていったようにも見えてくる。事実、セッション後半やアップル屋上での2人の阿吽(あうん)の呼吸はほれぼれするほどで、4人の演奏も非の打ちどころのないほど素晴らしいものだ。

だが、ジョージとリンゴの視点にたてば、ことはそう単純ではないように思えてくる。4人の屈託のない笑顔にかき消されがちだが、ジョージが従順になったパート2以降では、ジョンとポールが直接対立する場面が見られるようになっていくことにも注目したい。それまで2人の緩衝材となっていたリンゴもジョージも、もはや主体的にビートルズであろうとはしなくなっているように感じられるのだ。

プロの音楽家集団として屋上ライブをやり遂げ、なんとかアルバムを作るだけの新曲も録音したものの、このセッションを通じて、4人はやはりかつての一体感を取り戻すことはできないことを感じ取ったのではないのだろうか。ちなみにアップル屋上では、ジョージの曲もリンゴの曲も演奏されていない。つまりアップル屋上のライブは、リンゴが口をつぐみ、ジョージが自己主張を封印したことで実現した、砂上の楼閣だったという側面もあったのではないのだろうか。

だからこそ、その直後に4人の力を結集して最後のアルバム『アビイ・ロード』をレコーディングする決断をくだし、アルバム『レット・イット・ビー』の発売と映画『レット・イット・ビー』の公開を最後に解散するのではないのだろうか。ポールがめざした「ゲット・バック」=「原点に戻ろう」=「私の元へ戻って」という呼びかけは、ジョージに贈られた黄色い水仙のもう一つの花言葉のように「報われぬ恋」に終わってしまった、そう思えてくるのだ。

歴史的意義を持つドキュメンタリー

実際に作品を見終わって分かったことは、ピーター・ジャクソン監督が当初劇場用映画の製作方針として掲げていた「時空を超えたライブ・ビューイング・ショー」というコンセプトは、長編ドキュメンタリーに変更されたことで、一部軌道修正されていたことだ。このドキュメンタリーでは、この時期のビートルズの負の側面も旧作映画『レット・イット・ビー』以上にしっかりと、その全貌を包み隠すことなく描かれているのだ。

ビートルズが解散へと向かう過程であるかのような印象で描かれていた旧作映画を否定することなく、当時は表に出すことができなかった真相を、より詳細に徹底的に正確に描き直しているのだ。こうした真摯な製作方針に立ち返ったことによって、この作品はさらに大きな歴史的意義を持つものになったといえるだろう。

このドキュメンタリーで監督が描いているように、ゲット・バック・セッションは確かに4人の笑みがあふれ、最終的にはアップル屋上ライブとアップルスタジオ・ライブとして結実する。だが、その過程で明らかになったのは、4人の美しき少年たちを結びつけていた熱い友情は姿を変え、それぞれが独立したミュージシャンとしての個性を持ち、愛する女性や家族もいて、4人それぞれがグループへの愛よりも、自由に生きることと自己愛を貫くようになっていたという事実だったのではないのだろうか。そして、ポールが願った4人で「もう一度愛し合う」という「ゲット・バック・セッション」は、黄色い水仙が象徴するように、もう原点には戻れない「報われぬ恋」であることを浮き彫りにしたように思えてくるのだ。

歴史が権力者の圧力で書き換えられる悲しい出来事はこれまでにもしばしば起きている。だが、今回のように、過去のしがらみから解き放たれ、残されていた膨大な資料を駆使して、当時は描けなかった真相を新たに描き直したことの意義は大きい。今回新たに明かされた事実が若きマニア(研究者たち)によってしっかりと検証し直され、ビートルズ史がより正確に書き換えられ、ビートルズの果たした歴史的意義もまた再検証されていくことを期待したい。

広田寛治
 1952年愛媛県松山市生まれ長崎県長崎市育ち。山梨県立大学講師などを経て、作家・現代史研究家。日本文芸家協会会員。『大人のロック!』(日経BP/ビートルズ関連)、文藝別冊(河出書房新社/ロック関連)、ムック版『MUSIC LIFE』(シンコーミュージック/ビートルズ関連)などの執筆・編集・監修などを担当。主な著書に『ロック・クロニクル/現代史のなかのロックンロール(増補改訂版)』(河出書房新社)などがある。

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