世界で続くコロナの脅威 変異株の出現、ワクチン格差
2021年、ワクチン接種が始まり、経済活動を再開できるとの期待が高まったが、接種は思うように進まなかった。以前の日常が戻りつつあるとはいえ、ウイルスの脅威は続いている。ナショナル ジオグラフィック1月号では、パンデミック(世界的大流行)に振り回された1年をナショジオの写真家が撮った写真とともに紹介している。
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21年は新型コロナウイルス感染症を克服した勝利の年になると思われた。驚異的な速さでワクチンが完成すると、史上類を見ない全世界規模の接種が始まった。ロックダウン(都市封鎖)、ソーシャルディスタンス(社会的距離)、マスク着用といった光景は過去のものとなり、国境が開かれ、家族が再会し、経済が息を吹き返して、日常生活が戻るとの期待が高まった。
そのワクチン接種がつまずくとは、誰も予想していなかった。米国では、冬と夏に感染者が急増したにもかかわらず、数百万人が接種を受けなかった。研究が進むにつれてこの感染症への対応が変わっていったために、疑念がふくらんだのだ。誤情報と怪しげな噂がウイルス並みの速さで広がる。ワクチンは政府の統制手段であり、マスク着用を強いるのは自由の侵害だと声を上げる人たちもいた。その一方で、世界の多くの地域ではワクチンの入手すらできなかった。
私たちが集団免疫を獲得する機会を生かせずにいるなかで、新型コロナウイルスは増殖を繰り返し、多数の変異株が出現した。遺伝子変異のたびに、ウイルスによる致死率は高くなる。免疫系の網をかいくぐってたやすく細胞に取り付き、感染者に重篤な症状を引き起こし、国境を越えて広がるのだ。
デルタ株はそれまでのどの変異株より感染力が強く、致死率が高く、世界第2位の人口を抱えるインドに容赦なく襲いかかった。7月にはデルタ株が世界の主流になった。
コロナ禍では世界的なワクチン格差も露呈した。人々が接種を敬遠する国ではワクチンが余り、切実に必要としている国はワクチンが不足するか、まったく入手できていない。
新型コロナウイルスワクチンの初承認から9カ月たった時点で、ワクチンの全体量の8割以上が高所得国と上位中所得国で使用された。貧困国は1回目の接種もまだなのに、富裕国は3回目のブースター接種に向けて動きだしているのだ。
その結果、接種を1回でも受けていれば助かったはずの数百万の命が、世界中で失われることになった。
ワクチンが普及してもウイルスは撲滅できないかもしれない。普通の風邪を引き起こす4種類のコロナウイルスや、1918年のスペイン風邪のウイルスに由来するインフルエンザウイルスは、今も特定の地域で周期的に流行する。
新型コロナウイルスは今後も消滅はせず、変異を続けながら存在すると専門家はみている。それでも人間の側で免疫がつくので、流行は小規模になり、重症者も少なくなるだろう。
しつこく残るのはウイルスだけではない。数億人という感染者の1~3割が後遺症に長く苦しむおそれがある。ブレインフォグ(頭にもやがかかったようにぼんやりする)、記憶障害、疲労感、さらには勃起不全、月経不順、嗅覚・味覚喪失といった後遺症はまだ研究が進んでおらず、新たな治療薬や治療法が必要になるだろう。
いまだ多くの人がウイルスに無防備である以上、誰一人安全ではない。未接種の人は新たな変異株が生まれる格好の土壌になっている。ワクチン接種による免疫は、ウイルス感染で獲得する免疫より強力だ。接種に消極的な人を説得すると同時に、世界の隅々にまでワクチンを届けなくてはならない。COVAX(新型コロナワクチンを共同購入して全世界に分配する国際的枠組み)で確保されるワクチンは、22年初めには20億回分に達する見込みだ。
(文=英語版編集部 ビジャル・P・トリベディ、日経ナショナル ジオグラフィック社)
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