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展示されないお宝紹介 所蔵数1.5億の米スミソニアン

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ナショナルジオグラフィック日本版

2021年で創立175周年を迎える米スミソニアン協会は、20カ所におよぶ博物館や動物園を擁しており、外部の保管施設も含めると、その所蔵品は1億5500万点以上にのぼる。広さ100万平方メートルを超える展示・保管スペースには、投石機からスペースシャトル、アリからゾウまで、実にさまざまなものが収められている。

当然ながら、展示されている品は常に全体の1%程度でしかない。今回、3つの博物館の好意で、その舞台裏をのぞかせてもらった。そこは想像もしなかった驚きの品々であふれていた。

スミソニアン協会は、生涯一度も米国を訪れることのなかった英国人科学者、ジェームズ・スミソンが「知識の向上と普及のための施設」をつくるために米国へ寄付した遺産約50万ドルをきっかけに設立された。彼の名を冠した博物館はそれ以来、限りない好奇心や絶え間ない発見の代名詞となってきた。

膨大な数のアメリカ関連の品々

国立アメリカ歴史博物館5階の収蔵エリアで、背の高い両開きのキャビネットを開けてほしいとライアン・リンテルマン氏に頼んだとき、わたし(筆者のBILL NEWCOTT氏)はまさか古くからの友人たちに出会えるとは思ってもいなかった。

「そうです。ミスター・ムースとバニー・ラビットですよ」。同博物館エンターテインメント部門の学芸員であるリンテルマン氏が言う。一瞬、言葉が出なかった。幼いころ、わたしはほぼ毎朝、このふたりと一緒に過ごしていた。ミスター・ムースとバニー・ラビットは、子供向け番組『キャプテン・カンガルー』に登場するパペットだ。バニー・ラビットの姿は昔のままで、今にもいたずらを始めそうに見える。一方、いつもおしゃべりなミスター・ムースの方は、口の周りに白い薄布を巻かれていた。

「ミスター・ムースは歯が痛いわけではありません。布を巻いていないと、口がだらりと開いてしまうのです」。音楽・スポーツ・エンターテインメント部門の所蔵品管理責任者ハナ・ブレンデンベック・コープ氏が言う。

「sports balls(スポーツ・ボールズ)」というラベルのついたケースのいちばん上の引き出しを開けたリンテルマン氏が、ベーブ・ルースのサインが入ったボールを指さす。「これらのボールの多くは、歌手のエラ・フィッツジェラルドから譲り受けたものです。エラは大の野球ファンでした」

別の部屋には、引き出しに「Phyllis Diller(フィリス・ディラー)」と記された年代物のファイルキャビネットがあった。ディラーは1960年代から活躍した米喜劇女優だ。「ええ、このキャビネットにはフィリス・ディラーのジョークネタの目録が収納されているんです」とリンテルマン氏が言う。

「わたしたちが彼女の自宅を訪ねて、博物館に寄付したいという品々を見せていただいたとき、そろそろ失礼しようかという段になって、このキャビネットが目に止まりました。彼女が『まさかそんなもの入らないでしょう?』と言ったので、ぜひにと言って引き取ったんです。もちろん、わたしたちは提供されるものをすべて受け入れるわけではありません。何もかも保管しておくことはできませんから」

それはそうだろうとうなずきながら、別のガラスのキャビネットに目をやると、そこには人気コミックや特撮番組の絵柄がついた魔法瓶のコレクションがずらりと並んでいる。こうして見ると、スミソニアンの学芸員たちが収蔵品の提供を断っているという言葉を疑いたくなるが、それは決して嘘ではない。彼らは実際に日々、古い年鑑やおもちゃ、さらには『ナショナル ジオグラフィック』のバックナンバーなどを寄付したいという気前のいい申し出に対して、丁重なお断りの手紙を出している。

このまま永遠に見ていられそうだが、キリがないのでしぶしぶドアの方へ向かうことにしたそのとき、有名ロードレース選手の自転車の下に、「Gremlin. Fragile(グレムリン、取扱注意)」とのラベルが付いた箱を見つけた。

「ちょっと待ってください」とわたしは言った。「あそこにはあのグレムリンが入っているんですか」

「ええ、そうだと思いますよ」とリンテルマン氏が言う。氏が箱の前面を開けると、そこにはジョー・ダンテ監督の1990年のホラーコメディー映画『グレムリン2 新・種・誕・生』に登場するあの生物がいて、頭を支える木製の支柱の向こうからこちらをじっとみつめていた。その目は、ここから出してくれと懇願しているかのように見える。しかし、そこには手書きの警告が記されている。「ネジを外さないこと」

あの映画を見た人であれば、言われなくともネジを外そうとは思わないだろう。

ナマケモノガの世界最大コレクション

「これは世界最大のナマケモノガのコレクションです」と、昆虫学者のアルマ・ソリス氏が言う。

わたしがソリス氏に、スミソニアン国立自然史博物館の昆虫学資料室にあるU29番のキャビネットから、その引き出しを出してほしいと頼んだのだ。窓のないこのフロアでは、クリーム色のキャビネットの列がはるか向こうまで延びており、さながら世界最大な更衣室みたいだ。

U29番キャビネットには「Pyralidae/Chrysauginae/Nearctic & Neotropical(メイガ科/Chrysauginae亜科/新北区と新熱帯区)」との分類が記されており、ここには一般に「ナマケモノガ」として知られる小さな蛾(か)が含まれる。ナマケモノガという名前はどうやら、ほかの蛾よりも動きが遅いせいで付けられたわけではないらしい。そう呼ばれるのは、彼らが熱帯地方の樹上で暮らす、あのゆったりとした動きの動物と共生関係にあるためだ。

「ナマケモノは大半の時間を木の上で過ごしますが、排せつのために地面に降りてきます」とソリス氏は説明する。「ナマケモノガはナマケモノのふんの中に卵を産み付けるのです」

このコレクションは約200匹のナマケモノガからなり、それぞれが台座にきちんとピンで止められ、どこで、いつ、誰が見つけたのかなど、驚くほどたくさんの情報が書き込まれている。

こうした異常とも思えるほどの整理と細部へのこだわりは、どの引き出しにも、どのキャビネットにも徹底されている。スミソニアンの昆虫コレクションは3500万点の標本を擁し、博物館東棟の4階、5階、6階、7階の大半を占めている。

昆虫コレクションの管理責任者フロイド・ショックリー氏が、エレベーターロビーの近くに額装されている昆虫たちを指さす。そこに並んでいる恐ろしげな甲虫、華やかな蝶(ちょう)、ありえないほど細長いナナフシは、「博物館に来る人たちが見たいと思っているものです」と氏は言う。「かっこよくて、人気のある虫たちです」

しかし、多様性の大半は茶色や黒の小さな虫たちの中にあると、ショックリー氏は言う。「たとえばアリです。地球上のすべてのアリの数を足したら、脊椎動物の数を全部足したよりも多いでしょう」

エレベーターに乗り込み、来館者たちの目当ての恐竜やクジラがいる展示フロアへ戻る途中、ふと思いついてショックリー氏に、ハエを叩くのに罪悪感を覚えたことはありますかと尋ねてみる。

「たたかないようにはしています」と氏は肩をすくめる。「けれどもし家の中にクモがいて、妻にどうにかしてくれと頼まれたら……まあ、仕方ない場合もあります」

目に見える保管庫

優秀な学芸員たちが、展示する品を苦渋の思いで厳選しているのは確かだが、あれほどたくさんのお宝が人目に触れずにいるのはもったいないようにも思える。展示フロアに入り切らない収蔵品を、わたしたちが自由に見て回るようにはできないものだろうか。

実をいえば、これを実現している施設がスミソニアンにはある。それがワシントン特別区のモール地区から数ブロック先にあるスミソニアン・アメリカ美術館だ。この美術館最上階の一角にあるルースセンターには、ガラス張りの収納棚がずらりと並び、絵画、彫刻、陶器、民芸品などが収められている。

基本的な整理はされているものの――たとえば時代ごとに作品がまとめられているなど――、説明的な資料はほぼ見当たらない。大半の作品は、スミソニアンのウェブサイトで検索することができる長い目録番号で識別されているだけだ。

3階に立ってバルコニーの手すりから身を乗り出し、向かいのバルコニーに並ぶ番号の付いた所蔵棚を見渡してみる。「あそこの12-Bに何があるか見に行ってみましょう」とわたしが言うと、同館の上級学芸員エレノア・ハーベイ氏がうれしそうな声をあげる。「いいですね! あれはわたしのお気に入りの一つです」

古い金属製の階段を降りていくと、足音が響く。わたしが偶然選んだその棚には、主にアメリカ先住民たちを描いた作品群が収められている。作者はほぼヨーロッパ系のアーティストばかりだ。あるキャビネットには、伝統的な衣装を身にまとう、威厳と色彩に満ちた先住民の男女のポートレートが飾られている。

これは、旅をしながら絵を描いた著名な画家ジョージ・カトリンによる作品だ。1830年代に行った5回の遠征で、カトリンは西部のテキサスやノースダコタを訪れ、平原アメリカ先住民の人々を600枚以上の絵に収めた。その作品のほぼすべては現在、この壁にかけられているか、数メートル先のキャビネットに保管されている。研究者たちにとってここは、絵に残されなければ失われていたはずの情報の宝庫だ。

カトリンは米国とヨーロッパを巡って自らが描いた肖像画の展示を行った。学芸員のハーベイ氏は、カトリンの作品群からは博物館が直面している重大な問題を見て取れると語る。その問題とは、博物館や美術館が長年の間、白人以外の人々を単なる珍しい展示物程度のものとして扱ってきたということだ。

「現在、作品のモデルに対してのぞき趣味のような目を向けたり、相手を利用したりすることについて多くの議論がなされています」。ジョセフ・ヘンリー・シャープの1906年の作品『The Voice of the Great Spirit(大いなる精神の声)』を眺めながら、ハーベイ氏はそう語る。クロウ族の長が塚に埋葬されるところを描いた作品だ。前景には夫の死を嘆く妻の姿があるが、これは実際には、シャープに頼まれてしぶしぶポーズをとった別の女性だという。

ハーベイ氏は言う。「かつては自然史博物館のジオラマに、アメリカ先住民とイヌイットが一緒に置かれていたのを、わたしは覚えています。2つの民族の間には何の区別もされていませんでした。現在スミソニアンではアメリカ先住民の学芸員を雇用し、適切な展示の仕方について相談できるようにしています」

こうした公開保管エリアを設けても、アメリカ美術館のコレクションは、今もその70%が人目に触れないまま残されている。それでいいのだと、ハーベイ氏は言う。

「ときには『地下にしまってあるものを全部売ってしまえばいい』と言われることもあります。けれどそんなことをすれば、博物館の存在意義が損なわれます。この美術館はアメリカ美術の全体像を伝えるために存在します。そしてそれを実現するには、展示されている作品に頼るだけでは足りないことも少なくありません」

「矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、偉大な博物館を支えているものの一つは、展示されていない収蔵品なのです」

(文 BILL NEWCOTT、写真 REBECCA HALE、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2021年12月15日付]

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