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幽霊はもうかる? 米国で廃虚に泊まるツアーが大人気

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ナショナルジオグラフィック日本版

米ニューヨーク州ナパノーチにあるシャンリー・ホテルは、1895年に建造されたダッチコロニアル様式の3階建ての宿だ。このホテルのネットでの評価記事を読むとゾッとするだろう。何しろ、不気味な足音や謎の口笛を聞いた、姿が見えないゾンビ猫がいたなどと書かれているからだ。

意外なことに、こうした評価をした滞在者のほとんどが、このホテルに高評価を付けている。なぜなのか? そもそも滞在している人は、幽霊を見たり、感じたりすることを期待して泊まっているからだ。

シャンリー(映画「悪魔の棲む家」の家とそっくり)はニューヨーク州の最も不気味なホテルで、美術館や博物館、墓地、史跡などの心霊スポットをまわる「ホーンテッド・ヒストリー・トレイル」というコースの目玉の一つになっている。2013年に設定されたこのコースは、当初数カ所からスタートしたが、今では90を超える心霊スポットが登録されている。

米国ではさまざまな形の超常現象ツアーが行われており、ホーンテッド・ヒストリー・トレイルもこうしたツアーコースの一つだ。まさにニッチを狙った観光は、10年ほど前から人気が出ていたが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックをきっかけに、より関心が高まっているという。

「今の時代は本当にタフです」と霊媒師のパティ・ネグリ氏は語る。「昔、病気や飢饉(ききん)、戦争で大変なとき、人々は宗教に頼りました。最近では、皆が幽霊を見に行きたいと考えます」

死や悲劇をテーマにした旅といえば、ダークツーリズムを思い浮かべる人もいるだろう。その一方で、この世とあの世をつなぐとうわさされている史跡に寝泊まりすることが、歴史や文化を学ぶ手段だと考える人もいる。マリリン・モンローであれ、南北戦争の兵士であれ、亡くなったペットであれ、宿帳に記載されている幽霊の存在は、ふわふわのローブと同じく部屋のアメニティーの一つになりうる。

調査会社ユーガブが19年に実施した調査によれば、米国人の45%が超自然的な存在を信じている。20年に超常現象ツーリズムの市場調査をまとめた心理学者のジェームズ・フーラン氏は「一般の観光客やアマチュアのゴーストハンターは本物の魔法を体験するチャンスを求めています」と話す。「彼らは平凡な日常から抜け出し、現実の理解を広げてくれる別の場所に行きたいのです」

古いホテルは心霊スポットとして売り込めば注目を集めるとフーラン氏は言う。特に維持費がかさむ歴史的建造物の場合、幽霊は最高のビジネスチャンスになる。

幽霊はもうかる

超常現象ツーリズムは全世界で1億ドル規模(約110億円)の産業と推定されている。フーラン氏によれば、米フロリダ州キーウェストだけで年間2000万ドル(約22億円)以上を稼ぎ出しているという。ニューオーリンズ、サバンナ、ゲティズバーグなどの都市もゴーストツアーで観光客を引き付けている。

今は亡きサルバトーレ・ニコシアが05年にオークションで「シャンリー」を購入したとき、シャンリーはまさに打ち捨てられた建物だった。ニコシアは貯金をつぎ込み、建物を修復した。新しいオーナーはゴーストツアーや超常現象イベントの収益を継続的な保存活動の資金源にしている。

建物にいる幽霊は魅力的なだけでなく、地元の言い伝えを学ぶことができ、実際に何か不気味な体験をしたかどうかにかかわらず、話のネタになる。1716年ごろに建てられた米マサチューセッツ州のコンコーズ・コロニアル・インは、愛国者の兵士たちが廊下を歩き回っているとうわさされており、独立戦争中、野戦病院として使われていたことがわかっている。米ニューメキシコ州チャマにあるフォスターズ・ホテルでは、カウボーイと判事の幽霊がこの町の西部開拓時代を強調している。

21年前半には、リジー・ボーデン・ベッド&ブレックファストがゴースト・アドベンチャーズという会社に200万ドル(約2億円)近くで売却されたが、これは米ニュージャージー州フォールリバーにある同様の物件の4倍の金額にあたる。1892年にリジー・ボーデンの両親アンドリューとアビーが殺害されるという未解決事件の現場であるこの建物は1996年、建物の恐ろしい評判を活用する形で博物館兼宿泊施設に生まれ変わった。新オーナーは今、その(血塗られた?)足跡をたどっている。

フーラン氏は調査報告に、「起業家の考えでは、『古臭い荒れ果てた』ホテルは最新設備の真新しいホテルに対抗することはできません。取りつかれていない限りは」と記している。

ゲストルームに幽霊が出た?

幽霊が出ると言われている宿に泊まる旅行者は、画一的な部屋より歴史的な魅力を、巨大ホテルより小さな田舎の宿を選ぶ層と同じかもしれない。ヒストリック・ホテルズ・オブ・アメリカのエグゼクティブバイスプレジデント、ローレンス・P・ホーウィッツ氏は「これらの物語はつやつやのパンフレットに書かれるだけでなく、史跡に新たな一面を加えてくれます」と語る。ヒストリック・ホテルズ・オブ・アメリカはナショナル・トラストの会員名簿として機能している。

シャンリーのように、取りつかれたホテルとしてマーケティングされ、超常現象ウィークエンドや現地調査員とのツアーを主催している古い家もあれば、まず歴史的建造物、次に超常現象のホットスポットとして売り込まれている建物もある。米カリフォルニア州サンディエゴ近郊のホテル・コロナド、テキサス州オースティンのドリスキル、コロラド州エステスパークのスタンリー・ホテルなどが後者の例だ。

米ペンシルベニア州のホテル・ベツレヘムでは、取りつかれていると評判の932号室に宿泊できる。アメニティーはWi-Fi、キューリグ社のコーヒー、点滅するランプ、宙を舞う紙、不思議な球体などだ。

ホテルの怪談は多くの場合、現場で起きた死、宿泊した有名人、近くの墓地に埋葬されている地元の名士を題材にしており、言い伝えとして語り継がれている。なかにはホテルのオーナーが「募集」した単なるフィクションもあり、超常現象のうわさを検証(ときには「創造」)するため、霊媒師やゴーストハンターが雇われている。

ホラー映画(「シャイニング」「サイコ」など)は人里離れたホテルの宿泊客の惨状を描き出しているが、小さな町にある宿泊施設のオーナーたちは、幽霊を探すポッドキャストや「Ghost Hunters」、「Paranormal States」といった番組で取り上げられることが、客室を宿泊客で埋める助けになると考えている。バイオグラフィー・チャンネルの番組「マイ・ゴースト・ストーリー」のアソシエイトプロデューサーを務めるC・R・サンダース氏は「それまで知られていなかった場所が番組で取り上げられると、超常現象に関心を持つ人々が注目するのは間違いありません」と話す。

ゴーストバスターズに調査を依頼

マイク・フレイス氏は1993年、1907年に建てられたニューヨーク州のバーン・ブレイ・マンションを購入したとき、幽霊屋敷ホテルを経営するつもりではなかった。五輪の自転車競技のコーチだったフレイス氏はクイーン・アン様式の大邸宅をトレーニングセンターにしたいと考えていた。「しかし、冬になると雪が降るため、ここでは自転車に乗ることができません」とフレイス氏は話す。「娘の提案で、史跡に関心がある人々のための宿泊施設を開くことになりました」

開業して間もなく、「赤ん坊の泣き声が聞こえる」「足音がした」「氷のように冷たい手で触られた」といった苦情が寄せられた。「人々は激怒していました」とフレイス氏は振り返る。「私たちが、悪ふざけしていると彼らは思っていたようです」

フレイス氏は真相を究明するため、超常現象の調査を長く続けているサウス・ジャージー・ゴースト・リサーチを雇った。「彼らは機械と装置をすべて使い、3日かけて徹底的に調査しました。気が遠くなるような調査でした」

ゴーストバスターたちはモーションセンサー、デジタルカメラ、ボイスレコーダー、赤外線温度計を駆使し、幽霊のものと思われる画像や音声を180点以上も記録した。現在、ホテルのウェブサイトではその幽霊たちが宣伝されており、「人々は信じ難い体験をしなければ怒るようになりました」

ネグリ氏はハリウッド・ルーズベルト・ホテル、すでに閉鎖されているセシル・ホテル、ブラック・ダリア・ハウス、そして、シャンリーで幽霊に遭遇したと話している。幽霊たちが特定の場所をさまようのは、生前にその場所をよく知っていて、ただそこにとどまりたいだけだとネグリ氏は考えている。「ルーズベルト・ホテルの幽霊になぜそこにいるのかと質問したら、『なぜならここはホテルだから。そうでしょう?』という答えが返ってきました」

ネグリ氏は霊媒師として数十年にわたり、弁護士事務所や工場、タレントエージェンシーの悪霊を退散させてきたが、ホテルの幽霊を追い払うよう依頼されたことはない。「賢明な判断ではないと思います」とネグリ氏は言う。「超常現象ツーリズムは、今や巨大産業ですから」

(文 RACHEL NG、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2021年12月11日付]

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