目の中を満たしている房水が眼圧をコントロール

眼圧を管理するために重要なのは、眼球の内部を満たしている房水の流れをコントロールすることだ。房水は、目でレンズの働きをしている角膜、水晶体に酸素や栄養を補給している体液だ。

房水は毛様体という部位で作られ、眼球が正常な形を保つように圧力を調節しながら眼球内を循環。役割を終えると、虹彩の縁にある隅角(ぐうかく)という部分にある線維柱帯(せんいちゅうたい)を通って眼球の外の静脈に排出される。なんらかの原因で隅角が狭くなったり、隅角の房水の出口が詰まったりすると眼圧が高まるわけだ。緑内障の治療は、房水の作られる量や排出量をコントロールする医療である。

図2 目の構造と房水の流れ

毛様体で作られた房水(青矢印)は、隅角にある線維柱帯を通って眼球の外の静脈に排出される。(原図=123RF)

治療の中心は薬物治療 正しく使い続けることが重要

緑内障の治療の中心は、点眼薬による薬物治療だ。点眼薬には、房水を流れやすくする「プロスタグランジン関連薬」、房水の量を減らす「β(ベータ)遮断薬」「炭酸脱水酵素阻害薬」などがある。症状の程度や進行の速さによって、1剤で済む人もいれば、2剤、3剤を組み合わせることが必要な場合もある。点眼の手間を省くために、複数の成分を組み合わせた配合剤も発売されている。

須藤教授は「点眼薬の治療では、アドヒアランスの問題があります」と指摘する。アドヒアランスとは患者が治療の内容をよく理解し、正しい治療をきちんと続けることだ。緑内障の点眼薬治療は、中止すると再び眼圧が上がるため、生涯、薬を使い続ける必要がある。しかし、初期では自覚症状がほとんどない上、毎日決まった時間に点眼を続けるのが困難、あるいは点眼薬を正しく使うのが意外に難しい(下表)といったことから、治療を途中でやめてしまうケースや、間違った使い方をして本来の治療効果が得られず進行してしまうケースも少なくないのだという。

点眼薬1剤程度の効果のある低侵襲手術も普及

点眼薬の負担を減らしたい患者や、点眼薬だけでは眼圧がコントロールできない患者に検討される治療が、手術だ。これまで房水の排出路である線維柱帯の一部を切り取り、別の排出路を形成する手術(濾過手術)の一つである「トラベクレクトミー」などが実施されてきた。眼圧を下げる効果は高いが、眼球の切開範囲が大きいため縫合の必要があるほか、出血、感染症などによる術後合併症の問題もあった。

そこで近年、傷口が小さく患者の目への負担が小さい緑内障手術(低侵襲緑内障手術〔MIGS(ミグス) : micro invasive glaucoma surgery〕)が登場している。これにはいくつかの手術方法があり、例えば2010年に厚生労働省より認可された「トラベクトーム手術」は、細い針の先に取り付けられた特殊な電極により線維柱帯の一部を焼くことで房水を排出しやすくする手術だ。

“極低侵襲緑内障手術”であるアイステント手術も登場

さらに、より患者の負担が小さく“極低侵襲緑内障手術”ともいえる新たなMIGSとして登場したのが、iStent(アイステント)と呼ばれるチタン製の極小の管を使った手術だ。2016年に承認された手術で、長さ1mmのL字形のステントを線維柱帯のシュレム管に1個埋め込むことで房水の排出を促す。トラベクトーム手術と比較してもさらに出血や痛み、合併症のリスクが低い上、須藤教授は「これまでの研究で、点眼薬1剤分程度の眼圧を下げる効果があることが分かりました。2~3剤使っている方だと、薬を1つ減らせる可能性があるということです」と評価する。

そして2019年10月には、より小さな新型のステントを線維柱帯に2個挿入する手術方式が厚生労働省に承認された。これは「アイステント インジェクト ダブリュー」と呼ばれ、大きさは1mmの3分の1ほど。弾丸のような形をしたこのステントを、インジェクターと呼ばれる機器を用いて線維柱帯に2カ所打ち込む。アイステントを埋め込む作業が簡便になったことで手術が容易になり、さらに排出路が2つになることでより効率的に眼圧を下げられる。須藤教授は「海外の報告では旧型のアイステントより有効性が高いとの報告もあります。私の患者でも1剤使っていた点眼薬が必要なくなったケースもありました」と話す。

2019年に承認された新型のステント

「アイステント インジェクト ダブリュー」(画像提供=Glaukos社、以下2点も)

線維柱帯に2カ所打ち込まれたアイステント(イメージ)

アイステントの筒の中を房水が通り、眼圧が下がる効果が期待できる

新型ステントの大きさは0.36mmほど

アイステントの耐久性に関するデータはないが、「生体適合性の高い材質であり、長期間の留置でも問題ないと考えられる」(Glaukos社)という。
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