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土居裕子さん 王子そのものである理由(井上芳雄)

第108回

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NIKKEI STYLE

日経エンタテインメント!

井上芳雄です。1月は日比谷シアタークリエで上演されているミュージカル『リトルプリンス』に出演しています。サン=テグジュペリの『星の王子さま』を原作として、1993年に誕生した音楽座ミュージカルの東宝版です。王子を土居裕子さんと加藤梨里香さんがダブルキャストで演じていて、それぞれ別の作品と感じるくらい全く違う王子となっています。僕は飛行士とキツネの2役を演じて、1人で2人の王子の相手をしているので連日大変なエネルギーを使いますが、とても光栄なことと喜びに浸りながら演じています。

ストーリーは、砂漠に不時着した飛行士が宇宙に浮かぶ小惑星からきた王子と出会ってから別れるまでの話です。王子が暮らしていた小惑星はとても小さく、火山が3つとバオバブの木、1輪の花が咲いているだけ。ある日、花と喧嘩をした王子は、惑星を飛び出して、いろんな星を巡り地球にたどり着きます。そこで、不思議なヘビや、大切な友達になったキツネとの出会いを経験します。そんな王子の話を聞いているうちに、飛行士が持っていた飲み水が尽きてしまい、2人は砂漠の中で泉を探し始めます……。

土居さんは音楽座ミュージカル(以下、音楽座)のオリジナルキャストとして約30年前に初めて王子役を演じられました。最後に演じたのが24年前だそうです。そういう方が今また同じ役をやるというのは、世界でも例がなくて、ギネスブックに載るような快挙じゃないかと思います。もちろん演技は素晴らしくて、まさに王子そのもの。存在が軽やかで、僕もいろんな感情が呼び起こされます。役の上の感情もそうだし、あのときああだったなとか個人的な記憶がよみがえってきたりもして、なんだか不思議です。それはきっと、土居さんが王子そのものとして存在しているからじゃないでしょうか。

きっと王子を演じていなかったこの24年の間にも、いろいろ考えたり経験されていて、その蓄積が王子という役にまた集約されているのでしょう。なにより今、それを僕たちが見られるのはすごく幸せなことです。やっぱり演劇だから実現したことであって、そのお相手をできるのは光栄だし、いまだに興奮しながら同じ舞台に立たせてもらっています。

土居さんはいつも全力です。王子は2人だけど僕は1人なので、「芳雄君は力を抜いてやってね」と言われたのに、「土居さんも自分がやりやすいようにやってくださいね」と応えたら、「私は力を抜けない。いつでも裕子100%しかできないの」と言われました。お芝居や歌の技術は日本のミュージカル俳優の中でも最高峰だと思うのですが、そういう人が今も100%の全力でやっていると謙虚に言われるのは尊いことだし、本当にこれまでそうやってきたのだと思います。

土居さんとの共演はありましたが、ここまでがっつり組んだのは今回が初めて。本当に自然に生きているように演じられて、一緒にやっているこちらを緊張させません。自分もそうありたいなと思います。そんな土居さんの有りようは、『リトルプリンス』という作品のテーマに通じるものがあります。「砂漠が美しいのは泉をどこかに隠しているから」というのと一緒じゃないのかなと。それがどういう泉かは簡単には分からないけど、今までに歩んできた道が土居さんの中で豊かな泉をつくっていて、それを感じるのだと思うんです、僕たちやお客さまが。そういう意味でも、土居さんは王子そのものなんでしょうね。

梨里香さんの王子は全く違っているので、比べようがありません。王子役は初めてだし、まだ23歳と若い女優さんです。今回の王子は6歳くらいの子どもを想定しているのですが、梨里香さんはまさにそう信じさせてくれます。僕は共演するのは初めて。子役から始めているので芸歴が長く、歌もしっかり歌えるし、踊りも得意です。だから躍動感が自然に出るし、お芝居をやる気持ちも強い。若手のミュージカル女優として、あるべきものをしっかり備えている人だと思いました。

若い俳優さんは、僕もそうでしたが、経験や技術にまだ十分な自信がないので、たいていはなにかしら身構えて現場に入ってきます。梨里香さんも、どういう構えで来るのかと思っていたら、とても自然体だったので驚きました。適度に緊張しているし、恐縮もしているのですが、しすぎているわけでもない。土居さんのことも十分にリスペクトしていて、でもしすぎることもなく。自分が置かれている状況や与えられているものに対して、変に構えることなく、しっかり受け止めていました。若い俳優さんで、そういう人はあまりいないと思うので、すごいなと感心しました。そういうニュートラルなところが、王子の役にすごくあっていると思います。

土居さんとも、とてもいい関係です。稽古場では、土居さんが梨里香さんをとてもかわいがってフォローしていたし、梨里香さんもすごく刺激を受けていたようです。僕はダブルキャストは、お互いに精神的によくないと思うので、ふだんはあまり推奨してないのですが、これだけ違うダブルキャストなら、むしろよい作用がほとんどじゃないかと思うことがたくさんありました。

猫ではないが、キツネの役で夢かなう!?

王子が暮らしていた星に咲いていた花を演じるのは花總まりさん。王子が大切に思っている花は、この作品を貫く象徴としての存在なので、それを演じるにふさわしい人です。僕は、花總さんとはミュージカル『エリザベート』でずっとご一緒しています。皇妃のエリザベートを演じているときの花總さんは、あえて自分を追い込んでやっていると思うので、気軽に話しかけられない雰囲気があるのですが、今回は全然違っていました。稽古中も、花總さんとは『エリザベート』のときよりもすごくよくしゃべったし、別人のようでした。それがお芝居にも出ていて、生き生きと演じられています。もともと名前に花が付くくらい華やかな人なので、花の役もその明るくて強いところ、『エリザベート』の劇中だと少女のときのような感じがよく出ています。『リトルプリンス』に参加するのを、すごく楽しんでいるのが伝わってきました。

ヘビを演じている大野幸人さんとは初めての共演です。ダンスが素晴らしく、振り付けも自分でやっていて、表現者としてもクリエイターとしても優れた人です。稽古場では寡黙で、会う機会も少なかったのですが、どこか別の部屋にいてずっとヘビの振りをつくっていたそうです。囲み取材のときに、いろんな種類のヘビを研究したと聞いて驚きました。砂漠が舞台なので、サハラ地方にいるヘビで、その中でも血液毒のヘビに噛まれると苦しむけど、神経毒は苦しまずに死ねるというので、そっちにしようと。パフアダーというヘビの動きを意識して振り付けたそうです。歌もうまくて、本番が始まってからも楽屋でずっと歌っているのが聞こえてくるので、練習を重ねてきたことが分かります。今回のヘビを演じるために、とてもストイックに心血を注いできたのが表現から伝わってきて、素晴らしい才能だなと思いました。

僕はというと、飛行士とキツネの2役を演じました。キツネは着ぐるみを着るのですが、ここまで本格的な動物役は初めて。『キャッツ』にあこがれてミュージカル界に入ったので、猫ではないけど、何割かは夢がかなったのかな(笑)。王子に会ったときの第一声は鳴き声で始めようと思ったので、YouTubeで探してみました。キツネはコンコンと鳴くイメージですけど、実際はあまり鳴かなくて、犬と猫の間みたいな鳴き声でした。それをリアルにまねているつもりですけど、たぶんお客さまには分からないでしょう。耳やしっぽの使い方とか、穴がいっぱい空いているセットなので、その中に入ったり、外から出てきたりするコミカルな動きは自分で考えました。ちょうど稽古をしているときに、劇団四季の『アラジン』を見て、ランプの魔神ジーニー役の瀧山久志さんが素晴らしかったので、そんなふうにやりたいなと思って。場をワッと盛り上げて、お客さまを笑わせるのをイメージしていたのですけど、演出家からはやり過ぎだと言われながら、調整して今の形に落ち着きました。シリアスな飛行士とは全く違う役だし、早替えもあって体力的にもきついですが、お客さまの反応がうれしいし、すごくやりがいのある役で楽しいです。

『リトルプリンス』はダンスミュージカルともいえるくらい、踊りのシーンが多いのも特徴です。セットは周りに囲いがあって、丸いボールみたいな装置がひとつあるだけで、あとはなにもありません。プロジェクションマッピングの映像と人間の体で状況を表現するしかなくて、そこで若くて優秀なダンサーの方たちが素晴らしい動きを見せてくれます。20代前半の方が多いようですが、僕はほとんどが初めましての方たち。みんなスキルがあって一生懸命で、気持ちのいい若者たちです。ここでも新しい才能が活躍していて、みんなの力でこの作品の世界観が立ち上がっているのを感じました。

心をふるわせる「何か」がいっぱい詰まった名作

キャストの素晴らしさと同時に、あらためて実感したのは音楽座のミュージカルの素晴らしさと、それを愛する人たちの熱い気持ちです。前に『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』に出たときも思いましたが、すごく伝わりやすくて、自分も感情を受け取りやすい。『リトルプリンス』は日本の話ではないけど、普段やっている翻訳ものにある違和感や文化の違いを乗り越える感じはありません。ただただ胸に染みいってきて、涙が止まらない。そういう心をふるわせるものが、音楽座のミュージカルの中にあります。

今回、音楽座の出身で出演されているのは土居さんと縄田晋さんの2人。縄田さんは先輩飛行士などの役を演じています。縄田さんの言葉ですごく印象に残ったのが、「とにかく音楽座の人は音楽座のミュージカルが大好きなんだ」。それって当たり前のことかと思いきや、演劇の業界ではそうでもなくて、劇団を辞めた人には何かしらの思いがあるから、古巣が大好きだと明言できる人は多くないと思うんです。けど、音楽座出身の人たちは「この作品もいいし、これも好き。もしやるのなら自分も出たい」という人ばかり。3作続く東宝版の上演にも、「ありがとう。うれしいです」と口をそろえます。ここまで愛される作品の素晴らしさって、何なのだろうと思います。

きっと、それも砂漠の中の泉のようなものかもしれません。自分の中にものすごく大切なものとして、それぞれが持っている宝物があって、その何かを作品からもらっていて、お客さまにも渡してきたのでしょう。音楽座の歌の詞にも「何か」という言葉がいっぱい出てくると、演出の小林香さんが指摘していました。

そんな心をふるわせる「何か」がいっぱい詰まっているという意味でも、『リトルプリンス』は音楽座を象徴する名作のひとつです。まだ音楽座を知らない今の時代のお客さまにも、こんな素晴らしい日本のオリジナルミュージカルがあることを知ってもらいたい。それを伝えていくことが今回の上演の意味だし、演劇の役目のひとつだと思っています。

『夢をかける』 井上芳雄・著
 ミュージカルを中心に様々な舞台で活躍する一方、歌手やドラマなど多岐にわたるジャンルで活動する井上芳雄のデビュー20周年記念出版。NIKKEI STYLEエンタメ!チャンネルで月2回連載中の「井上芳雄 エンタメ通信」を初めて単行本化。2017年7月から2020年11月まで約3年半のコラムを「ショー・マスト・ゴー・オン」「ミュージカル」「ストレートプレイ」「歌手」「新ジャンル」「レジェンド」というテーマ別に再構成して、書き下ろしを加えました。特に2020年は、コロナ禍で演劇界は大きな打撃を受けました。その逆境のなかでデビュー20周年イヤーを迎えた井上が、何を思い、どんな日々を送り、未来に何を残そうとしているのか。明日への希望や勇気が詰まった1冊です。
(日経BP/2970円・税込み)
井上芳雄
 1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)、『夢をかける』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第109回は2月5日(土)の予定です。

夢をかける

著者 : 井上芳雄
出版 : 日経BP
価格 : 2,970 円(税込み)

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