『リトルプリンス』はダンスミュージカルともいえるくらい、踊りのシーンが多いのも特徴です。セットは周りに囲いがあって、丸いボールみたいな装置がひとつあるだけで、あとはなにもありません。プロジェクションマッピングの映像と人間の体で状況を表現するしかなくて、そこで若くて優秀なダンサーの方たちが素晴らしい動きを見せてくれます。20代前半の方が多いようですが、僕はほとんどが初めましての方たち。みんなスキルがあって一生懸命で、気持ちのいい若者たちです。ここでも新しい才能が活躍していて、みんなの力でこの作品の世界観が立ち上がっているのを感じました。

心をふるわせる「何か」がいっぱい詰まった名作

キャストの素晴らしさと同時に、あらためて実感したのは音楽座のミュージカルの素晴らしさと、それを愛する人たちの熱い気持ちです。前に『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』に出たときも思いましたが、すごく伝わりやすくて、自分も感情を受け取りやすい。『リトルプリンス』は日本の話ではないけど、普段やっている翻訳ものにある違和感や文化の違いを乗り越える感じはありません。ただただ胸に染みいってきて、涙が止まらない。そういう心をふるわせるものが、音楽座のミュージカルの中にあります。

今回、音楽座の出身で出演されているのは土居さんと縄田晋さんの2人。縄田さんは先輩飛行士などの役を演じています。縄田さんの言葉ですごく印象に残ったのが、「とにかく音楽座の人は音楽座のミュージカルが大好きなんだ」。それって当たり前のことかと思いきや、演劇の業界ではそうでもなくて、劇団を辞めた人には何かしらの思いがあるから、古巣が大好きだと明言できる人は多くないと思うんです。けど、音楽座出身の人たちは「この作品もいいし、これも好き。もしやるのなら自分も出たい」という人ばかり。3作続く東宝版の上演にも、「ありがとう。うれしいです」と口をそろえます。ここまで愛される作品の素晴らしさって、何なのだろうと思います。

きっと、それも砂漠の中の泉のようなものかもしれません。自分の中にものすごく大切なものとして、それぞれが持っている宝物があって、その何かを作品からもらっていて、お客さまにも渡してきたのでしょう。音楽座の歌の詞にも「何か」という言葉がいっぱい出てくると、演出の小林香さんが指摘していました。

そんな心をふるわせる「何か」がいっぱい詰まっているという意味でも、『リトルプリンス』は音楽座を象徴する名作のひとつです。まだ音楽座を知らない今の時代のお客さまにも、こんな素晴らしい日本のオリジナルミュージカルがあることを知ってもらいたい。それを伝えていくことが今回の上演の意味だし、演劇の役目のひとつだと思っています。

『夢をかける』 井上芳雄・著
 ミュージカルを中心に様々な舞台で活躍する一方、歌手やドラマなど多岐にわたるジャンルで活動する井上芳雄のデビュー20周年記念出版。NIKKEI STYLEエンタメ!チャンネルで月2回連載中の「井上芳雄 エンタメ通信」を初めて単行本化。2017年7月から2020年11月まで約3年半のコラムを「ショー・マスト・ゴー・オン」「ミュージカル」「ストレートプレイ」「歌手」「新ジャンル」「レジェンド」というテーマ別に再構成して、書き下ろしを加えました。特に2020年は、コロナ禍で演劇界は大きな打撃を受けました。その逆境のなかでデビュー20周年イヤーを迎えた井上が、何を思い、どんな日々を送り、未来に何を残そうとしているのか。明日への希望や勇気が詰まった1冊です。
(日経BP/2970円・税込み)
井上芳雄
 1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)、『夢をかける』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第109回は2月5日(土)の予定です。


夢をかける

著者 : 井上芳雄
出版 : 日経BP
価格 : 2,970 円(税込み)