縦型動画コンテンツ プロも続々、ドラマや映画でも
映画やテレビのように動画コンテンツは横長――。そんな常識が覆るかもしれない。スマートフォンで閲覧することを前提とした縦型ドラマや映画が次々に登場しているのだ。
そもそも、スマホのほとんどのサービスは縦長での利用を想定している。画面が回転するのを嫌い、縦長に固定している人も少なくない。動画視聴する際も、スマホを持ち変えることなく、他のサービスとシームレスに行き来できる縦型でと考える。
その流れを捉えてヒットしたサービスの代表が、短尺動画アプリ「TikTok」だ。リリース当初はダンス動画が多く、縦長の画面に合っていたため、人々は自然に縦長の視聴を受け入れた。現在はダンス以外のカテゴリーも多いが、ユーザーは縦型を基本として動画を作成している。
インスタグラムは2020年8月に短縮動画機能「リール」を発表。24時間で消える「ストーリーズ」機能とともに、縦長コンテンツで交流する仕組みを整えた。横長画面の動画サービスのユーチューブも、21年7月にリリースした短尺動画機能「ユーチューブ ショート」のベータ版には縦型を採用した。縦型動画の没入感が人々を魅了しているのだ。
ネットサービスの利用者が作成するコンテンツのことをUGC(User Generated Content)というが、UGCによる盛り上がりを受ける形で、プロが作る縦型コンテンツも増えている。
7月末から窪塚洋介主演の縦型ミステリードラマ『上下関係』を配信したのがLINE。19年6月、LINE NEWS内に「LINE NEWS VISION」をローンチ。スマートフォンファーストをめざし、様々な動画コンテンツを提供している。『上下関係』では配信開始と同時に視聴回数が300万回を突破したら縦型映画(ディレクターズカット版)を作るというプロジェクトを宣言し、配信開始2週間で突破した。これはLINE NEWS VISIONで配信した作品でも最速だという。
東宝はTikTokと映画祭「TikTok TOHO Film Festival 2021」を開催。グランプリを獲得した吉川啓太氏が監督を務めた短編映画『夏、ふたり』は、浜辺美波の主演で10月4日からTikTokで配信されている。
SHOWROOMも20年10月にバーティカルシアター「smash.」を開始している。月額550円の有料会員サービスだが、9月にはダウンロード数が150万を突破するほどの人気だ。
スマホで見る縦型動画の魅力はどこにあるのか。日経エンタテインメント! 2021年2月号の連載「エンターテック」でSHOWROOMの前田裕二社長は「没入感や臨場感が生まれやすい距離の近さ。想像力をかき立てる画角の制約。LINEやInstagramなどの画面を組み込むことで生まれる疑似体験」を挙げている。
LINE NEWS VISIONコンテンツプロデューサー内田準一朗氏によると、同サービスで[Alexandros]とタッグを組み、ショートムービー『夢で会えても』を製作した岩井俊二監督は、「縦長動画は、横長のように空の広さを表現するのは難しいが、その代わりに空の高さを表現できる」と語っていたという。
「縦型動画の魅力はスマホに収まらない」と内田氏は言う。『上下関係』の試写を映画の試写室で見た内田氏は、横長のスクリーンに映る縦長動画に最初違和感があったそうだ。「でも、見ているうちにすぐに作品に引き込まれた。その時、大きなスクリーンでの上映を目指したいと感じた」
縦型動画の海外事例としては「Quibi」が有名だ。20年4月にスタートしたサービスで、ウォルト・ディズニーのプロデューサーやドリームワークスのCEOを歴任した人物が創設者ということもあり注目を集めた。しかし、ローンチ後は有料会員数を伸ばすことができず、わずか半年でサービスを終了した。
TikTokの『夏、ふたり』やLINEの『上下関係』は無料で楽しめる。すでにサービスを利用している人も多い。サブスクリプションでの映像配信もスタンダード化してきており、縦型ならではの世界観を生かした高品質な映像を見られるサービスであれば、一気に普及する可能性は大いにある。
(ライター 鈴木朋子)
[日経エンタテインメント! 2021年11月号の記事を再構成]
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