インフル流行期は心筋梗塞リスクが23%上昇

著者らは、スペインのマドリードで、2013年6月から2018年6月までの5回のインフルエンザ流行期(9月の終わりとなる第40週から翌年5月半ばとなる20週まで)の心筋梗塞の発症率と、インフルエンザ発症率の一過性の関係を、気温を考慮した上で検討しました。今回は、検査によって確認されたインフルエンザ症例に限定せず、臨床的にインフルエンザと診断できる症状を示していた、インフルエンザ様疾患の患者を対象とし、流行期の1週間あたりの発症率に関するデータを収集しました。心筋梗塞発症者のデータは、患者登録から入手しました。また、週ごとの最低気温の平均値を分析に用いました。

2013年から2018年までに、心筋梗塞発症者は8240人報告されていました。うち5553人(67.6%)はインフルエンザ流行期に心筋梗塞を発症しており、それらの76.2%は男性で、45.7%は65歳以上でした。

インフルエンザ流行期の、各週の10万人あたりの心筋梗塞発症率は、男性が1.02、女性は0.29で、15~59歳が0.36、60~64歳は1.24、65歳以上は1.47でした。全体では0.73で、インフルエンザ流行期外の0.57に比べ有意に高くなっていました。年度と月、最低気温を考慮して推定すると、インフルエンザ流行期の心筋梗塞発症リスクは流行期外の1.23倍でした。

流行期外と比較した流行期の心筋梗塞リスク上昇は、女性では有意(リスク比1.35倍)でしたが、男性では上昇傾向(1.19倍)を示すにとどまりました。また、年齢で層別化すると、15~64歳では流行期外の1.22倍、65歳以上では1.25倍になりました。

次に、気温の低下と心筋梗塞の関係を検討しました。インフルエンザ発症の影響を考慮して分析したところ、その週の最低気温が1度低下すると、心筋梗塞発症者が2.5%増加することが示されました。

ワクチン接種済みの高齢者は心筋梗塞リスクが低下

続いて、インフルエンザ予防接種の心筋梗塞リスクへの影響について分析しました。インフルエンザ流行期に心筋梗塞を発症した5553人のうち、発症より15日以上前に予防接種を受けていた、すなわち、接種の効果が現れていたと見なされたのは1299人(23.4%)でした。93人(1.7%)は、接種のタイミングが心筋梗塞発症前の14日以内だったため、分析から除外しました。ワクチン非接種者は4161人(74.9%)でした。

対象となった集団の、流行期ごとのワクチン接種率は、65歳以上が56~60%で、60~64歳は25~30%、15~59歳は4~6%でした[注2]

インフルエンザワクチンの接種を受けた60~64歳の人々と65歳以上の高齢者の流行期の心筋梗塞リスクは、非接種群の0.58倍、0.53倍で、有意に低くなっていました(表1参照)。流行期外でも、これらの人々のリスク低下は有意でした。

表1 ワクチン接種の有無と急性心筋梗塞の発症率

(J Am Heart Assoc. 2021 Apr 20;10(8):e019608.)

流行期外でもワクチン接種群に心筋梗塞が少ない理由として、著者らは、「ワクチンが全身の炎症状態に好ましい影響を及ぼして、心筋梗塞につながるアテローム血栓性のイベントを予防するのではないか」という考えを示しています。また、「ワクチンを接種する人は、医療従事者の勧めに従う傾向が高く、心筋梗塞リスクを低減するための指示にも従う可能性がある」という仮説も示しています。例えば処方薬を適切に服用し、禁煙や、食習慣の改善、運動の実施といったライフスタイルの改善を心がけていたなら、季節にかかわらず心筋梗塞リスクの低下が見られても不思議ではありません。

[注2]日本では新型コロナウイルス感染症のパンデミック前のインフルエンザワクチン接種率は、13~64歳がおおよそ30%弱、65歳以上が60%弱で、高齢者においてはスペインとほぼ同レベルでした。(参考:延原弘章ほか. わが国におけるインフルエンザワクチン接種率の推計. 日本公衆衛生雑誌. 2014;61(7):354-9.)

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