アテネ五輪(2004年)女子マラソン金メダリストの野口みずき選手も、大きなストライドで最後まで力強く走るタイプでしたが、不破選手は野口選手のストライドをさらにダイナミックにしたような印象でした。東京五輪陸上競技女子1500メートルで8位入賞を果たした田中希実選手にも同様のことが言えますが、外国人選手と比べても見劣りしない走りを当たり前のようにできる選手の出現に、驚きと次世代への可能性を感じずにはいられません。

不破選手はさらに、2021年12月11日に開催された関西実業団ディスタンストライアル1万メートルで、初の1万メートルレースにもかかわらず、30分45秒21という学生新記録かつ日本歴代2位のタイムを叩き出し、今夏に米オレゴンで開催される世界陸上参加標準記録を突破しました。12月30日に静岡で開催された富士山女子駅伝(全日本大学女子選抜駅伝競走)では、最長である10.5キロのエース区間に起用され、12位でタスキを受け取り、脅威の10人抜きを達成。従来の区間記録を1分54秒も更新する32分23秒で区間新に輝きました。

不破選手や田中選手を筆頭に、10代後半から20代前半の陸上の中長距離選手の走りが、少数ながらも明らかに変わってきているように感じています。選手たちが世界に目を向けて、外国人ランナーを意識しているのかどうかは分かりませんが、走ることが本当に好きで、こんなふうに走りたいというイメージがきちんとできているのではないかと思います。恵まれた素質に頼ることなく、高い目標と自らの強い意志を持って普段の練習に取り組み、1つひとつの動きを調整していかないと、理想の形に近づくことはできません。彼女たちの目覚ましい成長は、そうした努力や意識の高さの賜物でしょう。

学生アスリートが世界の舞台で活躍するために必要なものとは

そんな圧倒的な力を見せる若い選手たちが、将来、世界の舞台で力を発揮するためには何が必要でしょうか。その1つとして、「雑草的な力」が挙げられると私は思います。雑草的な力とは、どんな環境でも物怖じせずに適応し、自分の意志で突き進める力です。例えば田中選手にはその雑草的な力を感じます。自分の強い意志はもちろん、負けず嫌いというか、いい意味で動じない図太さを持ち、賢さは感じるけれど神経質ではない。果敢に攻めていく堂々としたレース運びや、レース後の受け答えを見ても、どんな大会でも通用しそうな雑草的な強さを感じるのです。

一方、過去の事例を振り返ると、女子選手は指導者に依存しすぎるケースも見られます。指導者に手取り足取りで育てられた温室育ちのような女子選手ほど、予定通りにトレーニングができなかったり、試合でトラブルが発生したりするなど、何かをきっかけに不安に陥り、大事な試合で結果が出せないケースがあります。

自分で自分をコントロールできる力や、いい意味での図太さ、ネガティブな出来事をポジティブに転換できる思考を持てる選手の方が、どんなレース環境でも、どんなトラブルが起きたとしても、世界の舞台で力を発揮しているように思います。そう考えると、世界のトップレベルを目指す選手は自分で考えてコントロールする力を身に付けること、指導者は選手を大事に育てる時期と手放す時期のタイミングを誤らないことが、ポイントの1つかと思います。

まだ18歳の不破選手の場合は、大学から親元を離れて寮生活を始め、素晴らしい指導のもと2021年の成長につながっていると聞きました。若いうちは指導者による教育をしっかり受け、ゆくゆくはぜひ雑草的な力も身に付けて、世界で戦えるメンタルを持った選手に成長してほしいと思います。当たり前ですが、レースのスタート地点には1人で立たなければならず、誰も助けてくれません。そして世界の舞台ほど、自分でコントロールの利かない状況が普通であり、監督やコーチに守られた環境ではないのですから。

次のページ
女子学生特有の体の悩みと競技力のバランスの難しさ