
サートレイ氏はアーカンソーの沼地で何週間も根気強く撮影を続けた。1枚の、完璧な写真があればいいのだ。その写真さえあれば、ハシジロキツツキが今でも樹齢1000年のヌマスギの間を飛び回り、葉巻大の幼虫を食べているのだときっぱりと証明できる。私は彼の献身的な努力に尊敬の念を抱いたが、信念には共感できなかった。
編集部は、ハシジロキツツキの記事をできるだけ早く、ネタが新鮮なうちに掲載したいと考えていた。サートレイ氏は次の営巣期まで仕事ができるように1年延期してほしいと申し出たが、結局は編集部の意見が通り、記事は捜索の様子とその舞台をとらえた写真とともに掲載された。しかし、ハシジロキツツキそのものについては、ハーバード大学で保管されている60以上の標本が並ぶ写真が載っただけだった。
最大の懐疑論者は、捜索の舞台となった土地を管理するホワイト・リバー国立野生生物保護区の一部のスタッフだった。彼らは、何十年にもわたって低地を探索してきた経験豊かなアウトドアの専門家だ。それなのに、外部の専門家から、自分たちの森に生息する非常に大きくて騒々しい鳥を見つけられなかったと言われたのだ。怒るのも無理はない。しかし、魚類野生生物局が再発見を正式に支持し、公式発表の祝賀の場にも参加した以上、彼らもその見解に従わざるを得なかった。
ハシジロキツツキの絶滅が教えてくれたこと
そして、16年後の現在、いまだにハシジロキツツキを見た人はいない。ついには魚類野生生物局が、ハシジロキツツキは絶滅したと公式に認めた。ドードーやティラノサウルスと同じように、彼らはもういない。それどころか、同局のプレスリリースでは、最後に目撃されたのは1944年のこととなっている。2004年から2005年にかけてのアーカンソー州東部での目撃情報は間違いだったと、魚類野生生物局が認めたことになる。これで、多くの人が、一連の騒動は実に無駄な空騒ぎだったと主張し始めることだろう。
しかし、無駄ではなかったのだ。ハシジロキツツキの絶滅は私たちに何かを教えてくれるかもしれない。今回のプレスリリースでは、「減少が取り返しのつかないことになる前に」種を保存することの重要性についても述べられている。単一の種に焦点を当てるのではなく、生態系全体を保護するということだ。1つの魚種を守るために1つの川を保護するのは非効率的で、小規模な環境破壊の影響を受けやすい。しかし、その川を取り巻く大きな生態系を守ることで、魚だけでなく他の多くの種の生息地も守ることができる。
今回、絶滅が宣言された23種には、それぞれに存続のための条件があり、どこかの時点で連鎖が途絶えてしまったのだと言える。木材会社が工場を稼働させるスピードに合わせて米国南部の原生林が伐採されていた20世紀初頭、ハシジロキツツキの行く末は恐らくすでに絶望的だった。
19世紀末から20世紀初頭にかけての米国の発展の中で、ハシジロキツツキが存続できる広さの原野を保護することは不可能だっただろう。しかし、環境意識の高まりと自然保護活動のおかげで、ルイジアナ州のアチャファラヤ盆地やフロリダ州のビッグ・サイプレス湿地など、現代にも野生の土地は存在する。そうした場所には、アメリカクロクマやピューマ、ハクトウワシ、ワニなど、数え切れないほどの種が生息している。ただし、ハシジロキツツキがいなくなったことで森に空いた穴が埋まることは、永遠にない。
(文 MEL WHITE、訳 桜木敬子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2021年10月8日付]