化石の保存過程
オーストラリア博物館研究所の古生物学者で、今回の論文の執筆者の1人であるマシュー・マカリー氏がマグラスさんから連絡を受けたのは、17年のこと。マグラス・フラットの重要性に気付いたマカリー氏の研究チームは、その後繰り返し現地を訪れるようになる。
この場所の化石は、特殊な状況で保存されていた。化石は全て、針鉄鉱と呼ばれる極めて細かい酸化鉄の層の中に埋もれていた。同様の層から化石が発見されるのはこれが初めてではないが、マグラス・フラットの化石の質の高さは際立っている。
マカリー氏と共同で研究を率いたマイケル・フリース氏は、マグラス・フラットの化石は、その特殊な状況のおかげで、強力な走査型電子顕微鏡(SEM)の分析に適していると話す。一般に、SEMに使用する試料は、金やプラチナの薄い膜でコーティングする必要がある。だがそれをしてしまうと、その後この試料を使ってできる研究が制限されてしまう。その点、マグラス・フラットの化石は既に鉄が豊富に含まれていて導電性があるため、特別な準備をすることなくそのまま顕微鏡の下に置くことができる。
この方法によって既に、小さな化石のなかから驚きの発見がなされている。マグラス・フラットで唯一発見されている羽毛の化石からはメラニン色素が確認されており、その形状から羽毛が濃い色か玉虫色をしていた可能性があることがわかった。また、魚の目の化石にもメラニン色素が確認され、さらに1100万年以上前のチョウあるいはガの翅(はね)から剥がれ落ちた鱗粉(りんぷん)まで見つかった。

鉄の湖
マグラス・フラットは太古の三日月湖だったと、研究チームは考えている。蛇行する川の一部が途切れてできた湖だ。捕食動物はそれほど多くなかったが、これまでに十数種類以上の魚の化石が見つかっていることから、近くの川が氾濫した時に、魚など川の生物が定期的に流れ込んでいたと見られる。
マカリー氏とフリース氏は、近くにある玄武岩に含まれていた鉄が、岩の浸食とともにそこを流れる水に溶け出したのではないかと考えている。豪雨や洪水などで酸素濃度の高い新鮮な水が湖に流入すると、水中に溶けていた鉄イオンは湖底に沈殿して針鉄鉱を形成した。この時、たまたまそこにあった木の葉や生物の死骸も一緒に埋もれ、やがて化石となった。