クモの足の毛に鳥の羽 オーストラリアに残る化石

日経ナショナル ジオグラフィック社

ナショナルジオグラフィック日本版

オーストラリア南東部で発見された1600万~1100万年前のハバチの化石。その頭には、まだ花粉がついていた。(MICHAEL FRESE)

数年前のこと。オーストラリア南東部に住むナイジェル・マグラスさんが自身の土地を耕そうとしている最中、木の葉の化石を発見した。それはまるで本に挟んだ押し葉のように、細かい部分まできれいに保存されていた。

最近になって、サッカーグラウンドの半分もないその土地に、驚くほど状態の良い中新世(2303万年前~533万年前)の化石が大量に保存されていたことが明らかになった。

2022年1月7日付で学術誌「Science Advances」に発表された論文によると、ここマグラス・フラットは、中新世の熱帯雨林の生態系が化石として残る、世界でも珍しい場所だという。この時期、世界の生態系は大きく変化し、オーストラリアもアマゾンのような熱帯雨林から、現在のような乾燥地帯へと移行し始めていた。

オーストラリアではこれまでも中新世の哺乳類や爬虫(はちゅう)類の化石が見つかっているが、マグラス・フラットほど、生態系の基礎を成す小さな生物の化石が数多く発見されている場所は他にない。これらの化石は、1600万~1100万年前に、現在のニューサウスウェールズ州を覆っていた熱帯雨林がいかに多様性に富んでいたかを示している。

マグラス・フラットでは、クモの足の毛まできれいに保存され、魚は、虫を食べた後おなかを膨らませた状態で化石化していた。木の葉の化石は、二酸化炭素を吸い込んでいた気孔まで確認することができる。

カニクサ属のシダと思われる葉の一部。電子顕微鏡の下では、直径10ミクロンの気孔まで見ることができる。(MICHAEL FRESE)

生き生きとした生命の営みをそのまま切り取ったような化石もあった。頭を花粉だらけにしたハチは、きっと花の蜜を吸ったばかりだったのだろう。ある魚の尾びれには、二枚貝の幼生が寄生していた。この幼生は、川を俎上(そじょう)する魚に寄生し、その粘液を食べて生きていた。

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化石の保存過程