日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/12/3
1996年以降、科学者に目撃されていない生きたG・グエンテリのイラスト(ILLUSTRATION BY GABRIEL UGUETO)

なぜ下顎の歯を復活させたのか

遺伝子があるからといってG・グエンテリが下顎の歯を再び進化させた理由や仕組みが明らかになったわけではない。だが、食べ物が関係していることは確かだとパルー氏は言う。

動物が食べ物を捕らえ、咀嚼(そしゃく)するための主な道具である歯は、メニューに応じて形成されることが多い。パルー氏は、多くのカエルは小さな昆虫を好み、粘り気のある舌で獲物を捕らえられるため、一部の種では歯の重要性が低くなったと考えている。

しかし、G・グエンテリはトカゲや他のカエルなどの大きな獲物を食べる大食漢だ。大物を狙うときには、逃げようとしてもがく獲物を確保するために、下の歯があったほうがいいのかもしれない。

G・グエンテリの歯が大きな獲物を食べるために再進化したのだとすれば、他の肉食のカエルで歯が再進化しなかったのはなぜだろう? 「パックマン」の愛称をもつアマゾンツノガエル(Ceratophrys cornuta)のように、獲物をつかまえるためのギザギザの牙のようなものが下顎にあるカエルもいる。しかし、これらは下顎骨の延長であり、象牙質もエナメル質もないため、本物の歯ではない。

答えはアマガエルの胚(受精後間もない段階)に隠されているかもしれないと、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の進化生物学者アレクサ・サディエ氏は言う。氏は主にコウモリの歯の進化を研究しているが、2月2日付で学術誌「Journal of Experimental Zoology Part B」に発表した総説論文では、失われた形質が生物の受精後初期に残っているような事例をいくつか取り上げている。

サディエ氏は、G・グエンテリの成長過程を他の種のカエルの胚と比較することで、遺伝子がいつ、どのようにして歯の形成のオンとオフを切り替えているかを明らかにできるかもしれないと考えている。

氏はまた、胚を調べることで、成長の過程で消えた歯の証拠や、それに伴う遺伝子の配線がもっと見つかるだろうと期待している。

パルー氏も、このカエルについて発生生物学的な研究をしたいと考えている。しかし、新鮮な胚を入手できる可能性は非常に低い。冒頭に述べた通り、生きている野生のG・グエンテリは1996年以来発見されておらず、かつて生息していたエクアドルのコタカチ・カヤパス生態系保護区の湿った火山性丘陵地帯でも見つかっていないからだ。

このカエルに関することはほとんど知られていないが、エクアドルとコロンビアの雲霧林は農業や伐採によって荒廃しているため、その個体数が減少していることは確実だ。すでに絶滅しているのではないかと言う人もいる。

しかし、絶滅したと思われていたカエルが突然再発見された前例がないわけではない。2018年には、かつてG・グエンテリが目撃されたのと同じエクアドルの雲霧林で、ツノフクロアマガエル(Gastrotheca cornuta)が13年ぶりに発見されている。

パルー氏は、G・グエンテリも同じように再発見されることを願っている。このカエルの歯についての詳細を知り、進化の謎を解くには、生きたサンプルが不可欠だからだ。

(文 JACK TAMISIEA、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2021年11月12日付]