
失われ、取り戻された歯
約2億3000万年前、現生のカエルたちの祖先は、下顎の歯を永久に失った。では、なぜG・グエンテリの下顎には歯があるのだろうか? そして、どのようにして再び生えてきたのだろうか? 今回の研究は、こうした疑問の解決にも役立つ。
パルー氏らはまず、これらの歯がエナメル質に覆われた象牙質からなる正真正銘の歯であることを示し、歯に似た別の構造物である可能性を否定した。また、他のフクロアマガエル属の上顎の歯とよく似ていることも、大きな発見だった。
今回の発見は、古生物学者のルイ・ドロが100年以上前に提唱した「ドロの法則」(進化不可逆の法則)という進化理論を否定する、興味深い証拠となる。ドロの法則は、ヒトの祖先で失われた尻尾が今も失われたままであるように、ある生物グループが進化の過程で失った形質(体の特徴)は二度と復活しないとする理論だ。
この理論は一見正しそうに見えるが、進化生物学者たちはドロの法則の例外をいくつも発見している。卵生から胎生になり、再び卵生になったトカゲや、失った羽根を再び進化させたナナフシなどがそうだ。
しかしG・グエンテリの歯の再進化は、これまでで最もあり得そうになかったケースかもしれない。2011年、進化生物学者のジョン・ウィーンズ氏は、170種のカエルの進化的関係から、2億3000万年前にカエルが下顎の歯を失ってからG・グエンテリがそれを取り戻すまでの年表を推定した。
その結果、G・グエンテリが下顎の歯を取り戻したのは約500万〜1700万年前で、ある形質が失われてから再進化するまでの期間としては「前例のない」長さであることがわかった。この論文は2011年1月27日付で学術誌「Evolution」に掲載された。
ウィーンズ氏は現在、米アリゾナ大学に所属しており、今回の研究には関与していないが、G・グエンテリが歯を再進化させる際に1つだけ有利な点があったと考えている。それは、上顎の歯を作るための遺伝子ネットワークがまだ機能していたことだ。
「ゼロから歯を進化させるのとは事情が違います」とウィーンズ氏は言う。「2億年間歯がなかった場所に歯を作るというだけの話だったのです」
このプロセスは、ヒキガエルのように歯が1つもないカエルではおそらく不可能だっただろう。同じく今回の研究には参加していない米ミシガン大学ディアボーン校の生物学者ジョン・アブラミアン氏が、約6000万年前に完全に歯を失ったヒキガエルのエナメル質をコードする遺伝子を調べたところ、数百万年の間に退化して偽遺伝子(遺伝子としての機能を失ったDNAの領域)になっていることがわかった。この論文は2021年4月27日付で学術誌「Integrative and Comparative Biology」に掲載された。
「これらの遺伝子は基本的に仕事がなく」、機能していないとアブラミアン氏は言う。「(しかし)ほとんどのカエルは今でも上顎に歯が生えているので、理論的には、機能する歯を作るための道具はすべてそろっており、飛躍的な進化は必要ないのです」