失明につながる「緑内障」 早期発見に必要なことは?
この記事では、今知っておきたい健康や医療の知識をQ&A形式で紹介します。ぜひ今日からのセルフケアにお役立てください!
(1)日本人の中途失明原因の第1位である
(2)かなり視野が欠けても気づかないことも多い
(3)40代以降で増えてくる
(4)眼内レンズを挿入する手術を行うのが一般的
(5)早期発見には「視力検査」が特に大事
答えは次ページ
答えと解説
正解(緑内障の説明として間違っているもの)は、(4)眼内レンズを挿入する手術を行うのが一般的 と(5)早期発見には「視力検査」が特に大事 です。眼内レンズの挿入手術が一般的なのは、白内障。緑内障の早期発見で特に大事なのは、「眼圧検査」と「眼底検査」です。
緑内障とは、なんらかの原因で視神経が障害され、それによって視野が欠ける病気です。目に入った光は、網膜細胞でとらえられ、その信号が脳に伝えられますが、網膜全体の神経線維は視神経乳頭という部分で100万本の束となります。これが視神経です。緑内障では、この視神経が障害され、徐々に減り、消失した視神経の領域の視野が欠けていきます。
図1 緑内障による視野の消失のイメージ
緑内障は、眼科医が眼底写真という方法で網膜の視神経乳頭を調べると、40代以上で20人に1人に見つかり、年齢が上がるにつれその数はもっと多くなるといわれています。ただ目は常に動いている上、脳は視神経全体の情報を処理して見ているため、かなり視野が欠けても気づかないことも多いのが実情です。
失った視野は取り戻すことができない上、症状が進むと治療が難しく、2018年に発表された厚生労働省の調査[注1]では、緑内障は中途失明原因の第1位(28.6%)でした(第2位は網膜色素変性の14.0%)。
緑内障で大切な視力を損なわないために、最も重要なことは早期発見・早期治療です。東京女子医科大学附属足立医療センター(東京都足立区)眼科の須藤史子教授は、「緑内障で失った視野を回復することはできないものの、症状が進む前に発見し、適切な治療で進行を抑えれば、寿命を全うするまで日常生活に必要な視野を保つことができます」と訴えます。
[注1]Morizane Y,et al. Japanese Journal of Ophthalmology. 2019;63:26-33.
正常眼圧緑内障も眼圧を下げることで進行を食い止められる
緑内障の発症メカニズムについて確実なことは分かっていませんが、眼球内部の圧力(眼圧)が高いほどリスクが高いこと、そして眼圧を下げると緑内障の進行を抑制できることは分かっています。眼圧は10~20mmHgが正常範囲といわれているので、これを大きく超えると視神経が障害される可能性が高くなります。
ただ、眼圧が正常範囲でも少しずつ視神経がダメージを受けてしまう「正常眼圧緑内障」もあります。日本人に多く見られ、薬の副作用や基礎疾患など明らかな原因のない緑内障(原発開放隅角緑内障)の患者の9割を占めているという報告もあります。そして正常眼圧緑内障でも眼圧を下げることで進行を抑えられることも分かってきました。
目の中を満たしている房水が眼圧をコントロール
眼圧を管理するために重要なのは、眼球の内部を満たしている房水の流れをコントロールすることです。房水は、目でレンズの働きをしている角膜、水晶体に酸素や栄養を補給している体液です。
房水は毛様体という部位で作られ、眼球が正常な形を保つように圧力を調節しながら眼球内を循環。役割を終えると、虹彩の縁にある隅角(ぐうかく)という部分にある線維柱帯(せんいちゅうたい)を通って眼球の外の静脈に排出されます。なんらかの原因で隅角が狭くなったり、隅角の房水の出口が詰まったりすると眼圧が高まるわけです。緑内障の治療は、房水の作られる量や排出量をコントロールする医療といえます。
図2 目の構造と房水の流れ
治療の中心は薬物治療 正しく使い続けることが重要
緑内障の治療の中心は、点眼薬による薬物治療です。点眼薬には、房水を流れやすくする「プロスタグランジン関連薬」、房水の量を減らす「β(ベータ)遮断薬」「炭酸脱水酵素阻害薬」などがあります。症状の程度や進行の速さによって、1剤で済む人もいれば、2剤、3剤を組み合わせることが必要な場合もあります。点眼の手間を省くために、複数の成分を組み合わせた配合剤も発売されています。
そして、点眼薬の負担を減らしたい患者や、点眼薬だけでは眼圧がコントロールできない患者に検討される治療が、手術です。これまで房水の排出路である線維柱帯の一部を切り取り、別の排出路を形成する手術(濾過手術)の一つである「トラベクレクトミー」などが実施されてきました。これは、眼圧を下げる効果は高いものの、眼球の切開範囲が大きいため縫合の必要があるほか、出血、感染症などによる術後合併症の問題もありました。
そこで近年、傷口が小さく患者の目への負担が小さい緑内障手術(低侵襲緑内障手術〔MIGS(ミグス): micro invasive glaucoma surgery〕)が登場しています。これにはいくつかの手術方法があり、例えば2010年に厚生労働省より認可された「トラベクトーム手術」は、細い針の先に取り付けられた特殊な電極により線維柱帯の一部を焼くことで房水を排出しやすくする手術です。
さらに、より患者の負担が小さく"極低侵襲緑内障手術"ともいえる新たなMIGSとして登場したのが、iStent(アイステント)と呼ばれるチタン製の極小の管を使った手術です。これは、2016年に承認された手術で、長さ1mmのL字形のステントを線維柱帯のシュレム管に1個埋め込むことで房水の排出を促すものです。
自分の受けている眼科の検査を確認
最新医療の登場により治療の選択肢が増えてきた緑内障。失明はもちろん、視野の障害で快適な生活が損なわれることがないようにするには、やはり早期発見がポイントとなります。そのためには、40歳を過ぎたら、ほとんどの眼科で比較的簡単に受けられる「眼圧検査」「眼底検査」を定期的に受けることが重要です。
眼圧検査や眼底検査は人間ドックのメニューに入っていることも多いです。特に「肉親に緑内障の患者がいる人、強度近視の人はリスクが高いので、より積極的に検査を受けてほしい」と須藤教授はアドバイスします。具体的には、誰でも40代で1度、リスクの高い人は50代で5年に1度、65歳以上は2年に1度程度受けると早期発見につながります。
[日経Gooday2022年2月7日付記事を再構成]
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