答えが出たから面白くなるとも限らない

さて、今回の『奇蹟 miracle one-way ticket』はストレートプレイ(セリフだけの演劇)で、劇作家・北村想さんの新作オリジナル戯曲です。北村さんと演出の寺十吾(じつなし・さとる)さんとご一緒するのは初めてなので、新鮮なことばかりです。
本作の主人公は、記憶をなくした名探偵と、ストーリーテラーも務めるその親友のコンビ。僕は探偵・法水連太郎(のりみず・れんたろう)の役で、鈴木浩介さんが法水の高校時代からの親友で、現役の医師である楯鉾寸心(たてほこ・すんしん)を演じます。名探偵と相棒といえば、シャーロック・ホームズとジョン・ワトソンが有名ですが、2人はまさにそんな関係。日本が舞台ですけど、お互いをシャーロック、ワトソンと呼び合ったりもします。
北村さんは、僕のことをまったく知らずに台本を書かれたそうです。僕の舞台もたぶんご覧になってなくて、どんな俳優なのかもよく知らなかったみたいで、Zoomの画面越しに初めてお会いした本読みのときに「すごく驚きました」と言われました。どう驚いたのかは教えてくれなかったのですが(笑)、悪い驚きではなかったようです。それくらいお互いに前情報がないなかで、2月上旬から始まった稽古は、初めてともいえる経験ばかりでした。
物語も、出合ったことのない内容です。深い森で、傷を負った探偵が記憶喪失になっているところから始まります。記憶がないので、何の事件を依頼されたのかも分からないし、なぜ記憶を失ったのかという謎もからんできます。しかも分かりやすく物語が進むのではなく、どういうことなんだろうと見る人に想像する余地を残したまま進んでいきます。
稽古で戸惑ったのは、その謎に対して、作家の北村さん自身も答えを出してくれないこと。例えば、「尋ねてきたのは誰なんですか?」と具体的に聞いても、「それが分からないんですよ。彼かもしれないし……、彼かもしれない……」と曖昧にしか答えてくれません。北村さんが言うには、「聞いて答えが出たから面白くなるかというと、そうとも限らない」。稽古場で「この人はこうなんじゃないか」という答えが出れば、それが正解で、それでいいんだというようなことでした。僕は初めてご一緒するので、そのあたりのあんばいがよく分からずに、戸惑いながらの本読みや稽古でした。
演出の寺十さんやスタッフさんは、そのあんばいがよく分かっているみたいで、「やっぱり、あれはそうでしたね」とか推理を楽しんでいる様子です。分からないことを想像する楽しさがある台本だと感じたし、分からないことが好きな人たちが集まってつくっている演劇なのだとも思いました。