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フェスならではの新しい出会いや驚き

1月30日には『The Musical Day ~Heart to Heart~2022』が開かれました。俳優の上山竜治君が発起人となって、コロナ禍で自分たちにできることは何かということで始まったイベントです。2020年12月13日にオンライン配信で第1回を催したのに続いて、今回が2回目。僕は前回に続いての出演です。会場も同じブルーノート東京で、今回は配信に加えて、お客さまを入れての有観客ライブだったのが新しい点。ライブハウスの空間を生かして、ミュージカルの曲をバンド編成でアレンジを変えて、普段とはまた違う聴き方や楽しみ方ができるのも、このフェスの特徴です。

1月30日に開催された『The Musical Day ~Heart to Heart~2022』(ブルーノート東京)のフィナーレ

僕はミュージカル『リトルプリンス』の昼公演が終わって駆けつけたので、途中からの参加で慌ただしかったのですが、前回と違ってお客さまがいたので、やはり雰囲気が違いました。お客さまの視線を受けるとテンションが上がり、歌も気持ちが入ります。トークでは、前回もそうでしたけど、若手の俳優が多いので大御所扱いされるから、そのポジションなりの盛り上げ方というか、司会の宮澤エマさんや後輩たちに突っ込んでもらおうと、ついはしゃいでしまいました。

上山君からは、前回出てみて改善点はありますか、と聞かれていたので、当初から言っていたことではありますが、名前のある人だけじゃなくて、今後が期待されている人や違うジャンルの人も呼べたらいいね、と伝えました。それを覚えてくれていたのでしょう、ミュージカル畑以外の方も出演されていました。加藤礼愛さんは、まだ12歳ですが、歌い始めるとすごく個性のある声で、楽屋でもみんなびっくりして聴き入っていました。高橋あず美さんは、ニューヨークのアポロシアターでのアマチュアナイトで年間チャンピオンになったというだけあって、ソウルフルで素晴らしい歌声。そんな新しい出会いや驚きもありました。

僕は2曲歌いました。まずミュージカル『エリザベート』から『闇が広がる』をシュガーこと佐藤隆紀君とデュエット。次にソロでミュージカル『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』から『塵と灰』を。『塵と灰』は静かなところから始まって、盛り上がっていって、ちょっと賛美歌みたいになって、また盛り上がってとなる長い曲。テンポがすごく揺れるので、指揮者がいないと歌えないくらい、バンドと合わせるのが難しい曲です。そこで初めてのことですけど、自分の手でテンポをとりながら歌いました。指揮をしながら歌うような感じです。役を演じながらやると不自然だからできないですが、ライブの形式だからできることでした。

なので、すごく集中して歌えた気がします。先ほどのミュージカル畑じゃない2人の歌にも刺激を受けたし、佐藤君とのデュエットでも「シュガー、いい声出ているな」と思ったので、歌合戦ぽい雰囲気があった気がします。楽屋もみんな同じところで待機しているので、ほかの人の歌を聴いて「おお、すごいね」とか言いながら、自分が舞台に出たら負けじと頑張るという感じでした。これもライブハウスならではで、お互いを高め合うという点でいい効果を生んでいたように思います。

2つのフェス形式のミュージカルコンサートに出てみて、コロナ禍のなか、こうしたイベントが次々と立ち上がること自体、とてもうれしく思いました。やっぱり需要がないとできないことだし、ファンの方にも、こういう人たちが出るんだ、この人がこんな曲を歌うんだ、と楽しんでいただけたのではないでしょうか。ミュージカル界が盛り上がるのはありがたいことだし、声を掛けてもらえるのも光栄です。そこは喜ばしい点なのですが、一方で今後の課題も感じました。

まず、ミュージカルの曲で多くの人が知っているものは限られるので、曲目が似通ってしまうこと。どうしても『レ・ミゼラブル』だったりディズニーだったりからの曲が多くなります。もちろん有名な曲を素晴らしい歌唱で聴く喜びはあるとは思うのですが、それが短期間に重なると、既視感が出てきます。俳優の側も歌い慣れている曲を歌うことが多いから、レパートリーが決まってくる。出演者も、そこまでミュージカル界に無尽蔵に人材がいるわけではないので、どうしても重なります。僕自身がそうで、片方は映像にしても、両方とも出ていますから。曲目や顔ぶれは今後の課題でしょうし、ジャンルを超えた広がりがもっと出てくるといいですね。

いろんなフェスやコンサートが出てくるのはうれしいことではあるけど、逆に多すぎると、それぞれのパワーが分散して、大きなうねりになりにくいかもしれません。本当は、ミュージカルのイベントといえばこれという決まった催しが年に1回くらいあって、そこを目がけて業界全体が盛り上がるようになればいいのにと思います。例えば、アメリカのトニー賞のように。今はそれぞれの場所で、いろんな種が生まれているという状況です。それ自体は素晴らしいことなので、まずはそれぞれが大きく育っていけるようにしたいし、僕にできることがあるとすれば、その橋渡しというか、間をつなぐ役割なのかなと。コロナ禍が収まれば、そういう流れもまた加速すると思うので、楽しみですね。

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ミュージカルの表現だから心の声が伝わる