隈研吾氏や佐藤可士和氏も参加 「快適な公共トイレ」
日本財団が実施する「THE TOKYO TOILET」プロジェクトは、東京都渋谷区内17カ所に誰もが快適に利用できる公共トイレを設置する取り組みだ。安藤忠雄氏、隈研吾氏といった建築家や佐藤可士和氏ら16人が参加し、それぞれ公共トイレのデザインを手がける。すでに12カ所の公共トイレが完成し、2022年に残る5カ所の完成が控えている。
日本財団は、トイレは日本が世界に誇る「おもてなし」文化の象徴と考え、同プロジェクトをスタートさせた。次々と新しいデザインのトイレが生まれる中、最新技術を活用したトイレが注目されている。
東京都新宿区と杉並区を結ぶ水道道路を新宿から西に進むと、通り沿いに白くて丸い建物が見えてくる。これは、TBWA HAKUHODOのチーフ・クリエイティブ・オフィサー、佐藤カズー氏がデザインした公共トイレ「七号通り公園トイレ」だ。21年8月から利用できるようになった。
人目を引くこの形状は、「急を要している人」が見つけやすいようにした。眺めていると確かに、通りを歩く人やジョギング中の人、わざわざ自転車で引き返している人の姿も見られる。特徴的な球形の空間は、空気が流れやすく、内部に臭いなどが滞留しにくいという利点も備えている。
扉を開け、水を流してくれるトイレ
このトイレにはもう1つ、「扉を開ける」「トイレの水を流す」など、声で操作できるという特徴がある。入り口脇のモニターに表示されたQRコードをスマートフォンで読み取ると、スマホ画面に専用ページが立ち上がる。画面を操作した後、「ハイ、トイレ」と呼び掛け、「ドアを開けて」と言うと、「分かりました。ドアを開けます」と音声アナウンスが流れ、扉が開く。ボイスコマンドは利用手順を示したスマホ画面の専用ページで閲覧できるほか、内部の壁面でも確認できる。
声で操作できるというアイデアは、人々の公共トイレに対するインサイト(購買につながる心の動き)から見いだした。佐藤氏がリサーチしたところ、「肘で開ける、肩を使って閉める、足を使って流すなどの声があった。ほかにも、扉を蹴り開ける、ティッシュごしに触っているなど、ほとんどが直接触れたくないという意見だった」という。
同社シンガポール拠点のスタッフへのインタビューでも同様の声が集まり、公共トイレへの要望には、国による違いは小さいと分かった。こうした課題の解決策として「ハンズフリートイレ」というアイデアが生まれ、そこから声で操作するという方法を導いたという。
佐藤氏は、「建築的なデザインで勝負するのではなく、インサイトに向き合うことでアイデアや解決策を出す、広告で培った経験値の活用を考えた」と振り返る。
開発においては、不特定多数の人々が長く使うことを視野に入れ、メンテナンス性や信頼性を重視した。音声操作は、実物と同等のスペースを設けて検証し、毎月課金が必要な外部のサービスを使わず、独自のシステムを開発している。
(ライター 廣川淳哉)
[日経クロストレンド 2021年11月11日の記事を再構成]
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