日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/12/6

ただし、都市生活には危険も伴う。中でも車にひかれることは、ケープタウンのカラカルの死因第1位になっている。野生ネコ科動物の保護団体「パンセラ」の野生生物学者で、14年にケープタウン大学の「アーバン・カラカル・プロジェクト」を創立したローレル・セリーズ氏によれば、脅威はそれだけではない。毒物、イヌによる攻撃、わななどもカラカルを脅かしている。また、都市開発によって生息地が隔絶され、遺伝子の多様性が低下していることも、カラカルの将来にとって大きな問題だと氏は指摘する。

それでもカラカルは「思わぬ方法で人間に適応しています」とセリーズ氏は話す。例えば人が多い場所なら、人に見られないように行動を調整するという。「これは新鮮な驚きでした」。氏も前述の論文の著者だ。

さらに、北部ほど開発されていない半島の南部では、カラカルが都市周辺を避けることも調査で明らかになっている。つまり、環境に応じて行動が変わるということだ。

これまでのところ、ケープタウン市民の大半はカラカルに好意的で、目撃情報(や交通事故死)をアーバン・カラカル・プロジェクトに報告してくれる市民科学者もいる。カラカルが飼いネコを殺したという事例もあるが、獲物として狙うのは野生動物であることがほとんどだ。

脅威の実態が調査で明らかに

セリーズ氏によると、ケープ半島のカラカルに関する研究は14年以前には存在しなかった。その大きな理由は、そこにカラカルがいることすら信じられていなかったからだ。実際、テーブルマウンテンでの生息数を調査するにあたり、カラカルはいないと思っていた国立公園を説得しなければならなかった。

しかしセリーズ氏らはその後、都会に暮らすカラカルの移動や食生活、遺伝、脅威について多くのことを明らかにしてきた。26匹のカラカルに全地球測位システム(GPS)付きの首輪を取りつけたことに加え、検視を行ったり、街の周辺にカメラトラップ(自動撮影装置)を仕掛けたり、写真や動画による目撃情報を集めたりしている。

「実際に現場に出向いてそこから学ぶことと、どんな脅威があるのかを突き止めることが重要なのです」とセリーズ氏は話す。

最新のデータによれば、15~20年のケープタウンにおけるカラカルの死因のうち、70%以上が車との衝突だ。毒物も危険をもたらす。セリーズ氏が調査したカラカルの死体のうち、92%から抗凝固剤系の殺鼠剤(さっそざい)が検出され、致死的な量である場合も多かった。

さらに、小動物用のわなにかかったり、イヌに殺されたり、犬パルボウイルスなどに感染したりすることもあるとセリーズ氏は言う。

21年1月には、車との衝突を減らすため、特に事故が多い市内7カ所にカラカルへの注意を促す反射式の標識を設置した。ただし、この対策によって実際に事故が減ったかどうかを検証するデータはまだ収集できていない。また、カラカルがよく通る場所で車のスピードを抑えるため、道路に隆起を設けることも提案している。

ケープペンギンを捕食するカラカル

ある調査によると、カラカルの獲物の中で家畜が占める割合は4%に満たない。それでも、野生のカラカルがそばにいることを好まないケープタウン市民もいる。

多くの市民は、夜はペットを屋内に入れるか、「キャティオ」と呼ばれるネコ用の安全な屋外スペースを設けるなど、カラカルに対応した生活を送っている。どちらも、アーバン・カラカル・プロジェクトが推奨する対策だ。

カラカルたちは、郊外の住宅地、ブドウ園、道沿いなど、都市の隅で目立たないように行動することを学んだ(PHOTOGRAPH BY LUKE NELSON)

ケープタウンのエコエステート(環境に優しいことが売り文句の郊外の住宅地)の中には、一部の住民が近隣の会合やソーシャルメディアでカラカルの排除を要求しているところもある。

アーバン・カラカル・プロジェクトの複数の生物学者によると、カラカルを捕まえて別の場所に放しても、うまくいかないことが多い。理由の一つは、排除しても別のカラカルがやってくる可能性が高いことだ。

16年に実際にそれが起きたのが、ケープタウン南部のテーブルマウンテン国立公園の一角にあるボルダーズ・ビーチだった。この砂浜は、絶滅が危惧されているケープペンギン2000~3000羽の営巣地となっている。

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狭まるカラカルの生息地