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野生ネコ、開発で狭まる生息地 遺伝子多様性に黄信号

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版

南アフリカ、ケープタウン。そのネコ科動物は山道に座り、息を弾ませながら低い山を登ってくる私たち3人を見つめていた。カラカルだ。2021年10月のある暖かい夕方のことだった。

山道からはケープタウンの街の明かりを見下ろすことができ、反対側にはテーブルマウンテンの切り立った岩肌がそびえている。逃げていくだろうと思ってしばらく立ち止まってみたが、予想に反して、カラカルはこちらへ向かってきた。

ヘッドランプが、その茶色い体や丸い目、大きくとがった耳を照らし出す。耳の先には、黒く長い毛が生えている。カラカルはそのまま私たちの横を通り過ぎ、一瞬立ち止まってこちらを振り返ると、茂みの中に消えていった。

このあたりで「ヘルメス」と呼ばれているカラカルであることはすぐにわかった。ヘルメスは人に慣れており、このテーブルマウンテン国立公園でハイカーやトレイルランナーによく目撃されているという。

テーブルマウンテン国立公園は、ケープタウンの市内にあり、250平方キロメートルほどの広さがある。ケープタウンは海に面した南ア有数の都市で、1970年に110万人だった人口が、現在は470万人まで増えている。市街地のすぐそばに山があり、ヒヒ、ヘビ、ペンギンといった多くの野生動物が都市に適応して暮らしている。4歳か5歳と考えられているヘルメスは、そんなケープタウンの自然保護の象徴のような存在だ。

都市に暮らすカラカル

カラカルは体高50センチほどのネコ科の動物だ。足が長くて警戒心が強く、通常は夜に活動する。アフリカやアジアのさまざまな場所に生息しており、絶滅の危機にあるわけではない。

ただ、ケープタウンのカラカルは別の意味で注目に値する。ヒョウが狩猟によって姿を消した20世紀初頭以降、カラカルがケープ半島の最上位捕食者となっているからだ。ケープタウン大学の研究員ガブリエラ・レイトン氏によると、都市部でカラカルがよく見られるようになったのは最近のことだ。ミナミヤブカローネズミやホロホロチョウなど、捕まえやすい獲物に引き寄せられたのではないかという。現在、ケープ半島には60匹ほどのカラカルがいると考えられている。

「カラカルは、何であろうと一番捕まえやすい獲物を狙います」とレイトン氏は話す。氏はカラカルの行動に関する研究を主導し、20年2月20日付で学術誌「Urban Ecosystems」に発表した。

カラカルは、人に慣れるにつれて、多くの人が訪れるハイキングコースや、カーステンボッシュ国立植物園、日没に人が集まるクリフトン・ビーチなど、市内各地の自然が残る場所に出没するようになっている。

多くのカラカルが好んで狩りをするのは、市街地のはずれにある住宅地、道路、ブドウ園などだ。開発が進んでいるテーブルマウンテン北側では、その傾向が特に強い。私たちがヘルメスを見かけたのも、テーブルマウンテンの北側だ。

ただし、都市生活には危険も伴う。中でも車にひかれることは、ケープタウンのカラカルの死因第1位になっている。野生ネコ科動物の保護団体「パンセラ」の野生生物学者で、14年にケープタウン大学の「アーバン・カラカル・プロジェクト」を創立したローレル・セリーズ氏によれば、脅威はそれだけではない。毒物、イヌによる攻撃、わななどもカラカルを脅かしている。また、都市開発によって生息地が隔絶され、遺伝子の多様性が低下していることも、カラカルの将来にとって大きな問題だと氏は指摘する。

それでもカラカルは「思わぬ方法で人間に適応しています」とセリーズ氏は話す。例えば人が多い場所なら、人に見られないように行動を調整するという。「これは新鮮な驚きでした」。氏も前述の論文の著者だ。

さらに、北部ほど開発されていない半島の南部では、カラカルが都市周辺を避けることも調査で明らかになっている。つまり、環境に応じて行動が変わるということだ。

これまでのところ、ケープタウン市民の大半はカラカルに好意的で、目撃情報(や交通事故死)をアーバン・カラカル・プロジェクトに報告してくれる市民科学者もいる。カラカルが飼いネコを殺したという事例もあるが、獲物として狙うのは野生動物であることがほとんどだ。

脅威の実態が調査で明らかに

セリーズ氏によると、ケープ半島のカラカルに関する研究は14年以前には存在しなかった。その大きな理由は、そこにカラカルがいることすら信じられていなかったからだ。実際、テーブルマウンテンでの生息数を調査するにあたり、カラカルはいないと思っていた国立公園を説得しなければならなかった。

しかしセリーズ氏らはその後、都会に暮らすカラカルの移動や食生活、遺伝、脅威について多くのことを明らかにしてきた。26匹のカラカルに全地球測位システム(GPS)付きの首輪を取りつけたことに加え、検視を行ったり、街の周辺にカメラトラップ(自動撮影装置)を仕掛けたり、写真や動画による目撃情報を集めたりしている。

「実際に現場に出向いてそこから学ぶことと、どんな脅威があるのかを突き止めることが重要なのです」とセリーズ氏は話す。

最新のデータによれば、15~20年のケープタウンにおけるカラカルの死因のうち、70%以上が車との衝突だ。毒物も危険をもたらす。セリーズ氏が調査したカラカルの死体のうち、92%から抗凝固剤系の殺鼠剤(さっそざい)が検出され、致死的な量である場合も多かった。

さらに、小動物用のわなにかかったり、イヌに殺されたり、犬パルボウイルスなどに感染したりすることもあるとセリーズ氏は言う。

21年1月には、車との衝突を減らすため、特に事故が多い市内7カ所にカラカルへの注意を促す反射式の標識を設置した。ただし、この対策によって実際に事故が減ったかどうかを検証するデータはまだ収集できていない。また、カラカルがよく通る場所で車のスピードを抑えるため、道路に隆起を設けることも提案している。

ケープペンギンを捕食するカラカル

ある調査によると、カラカルの獲物の中で家畜が占める割合は4%に満たない。それでも、野生のカラカルがそばにいることを好まないケープタウン市民もいる。

多くの市民は、夜はペットを屋内に入れるか、「キャティオ」と呼ばれるネコ用の安全な屋外スペースを設けるなど、カラカルに対応した生活を送っている。どちらも、アーバン・カラカル・プロジェクトが推奨する対策だ。

ケープタウンのエコエステート(環境に優しいことが売り文句の郊外の住宅地)の中には、一部の住民が近隣の会合やソーシャルメディアでカラカルの排除を要求しているところもある。

アーバン・カラカル・プロジェクトの複数の生物学者によると、カラカルを捕まえて別の場所に放しても、うまくいかないことが多い。理由の一つは、排除しても別のカラカルがやってくる可能性が高いことだ。

16年に実際にそれが起きたのが、ケープタウン南部のテーブルマウンテン国立公園の一角にあるボルダーズ・ビーチだった。この砂浜は、絶滅が危惧されているケープペンギン2000~3000羽の営巣地となっている。

この営巣地を見つけたメスのカラカルを捕獲して別の場所に放したところ、近くに定着させることに成功した。ところが、そのメスの子どものうち、1匹のオスが母親のいたペンギンの営巣地に現れ、捕獲されるまでの1年近くの間に推定260羽ほどのペンギンを殺した。このオスも、のちに近くの自然保護区に移されたが、数日後に保護区を出て、車にひかれてしまった。

幸い、カラカルが積極的にペンギンを探し求めているという証拠はない。しかし、偶然にも営巣地を見つけたカラカルは、「まるでお菓子屋さんを見つけた子どものようです」と、ケープタウンの沿岸環境管理責任者を務めるグレッグ・オエロフス氏は言う。こうした問題は、市と国立公園の両方が関係するため、両者が連携して対策にあたっている。

ボルダーズ・ビーチの駐車場でオエロフス氏を待つ間、車のまわりを歩き回るペンギンたちを見ていた。車や人間はまったく気にしていないようだ。ケープペンギンは主に島で暮らすため、陸上の危険に対して無頓着だ。営巣地を厳重に保護しなければならない理由はそこにもある。

現在の規則では、カラカルがペンギンの営巣地に入ってきた場合、捕獲して安楽死させることになっている。ペンギンの保護が優先されるためだ。しかしそれは最悪のケースで、そうならないように予防することを重視していると、オエロフス氏は話してくれた。

それを実現するため、市は防護フェンスを設置した。カラカルが侵入しにくいように、フェンスの上部には回転する筒が付いている。今のところ、この対策は功を奏しているという。

オエロフス氏は、フェンスに設置したカメラトラップの写真をスマートフォンで見せてくれた。その中の1つには、こちらの狙い通り、フェンスに沿って海岸から離れていくカラカルが映っていた。また、とがった耳と黒い毛をオエロフス氏が指し示すまで、どこにカラカルが写っているのかわからない写真もあった。

狭まるカラカルの生息地

集団同士が孤立し、遺伝的な多様性が失われることも、カラカルにとっては脅威となる。セリーズ氏のもとには、ケープ半島にいる60匹ほどのカラカルが近親交配を繰り返していることを示す未公開のデータがある。近親交配が進めば、この地域全体のカラカルの健全性が低下し、やがて全滅に至る。

その原因は、テーブルマウンテンの周辺地域が開発されたせいで、ほとんどの野生動物は外部との出入りができなくなったことにある。

現在かろうじて残されている外部への通路は、テーブルマウンテンとフォールス湾周辺をつなぐ狭い地域だけだ。だがそこも今後、住宅地として開発される可能性がある。

「この狭いグリーンベルトは守り通したいと思っていますが、譲歩して(開発を)認めざるをえない事情もあります」とオエロフス氏は話す。これは、人と自然の「良好なバランスを見つけようとする」終わりのない努力の一つだ。

セリーズ氏によると、外部から半島にやってくるカラカルは珍しく、すでに定着しているカラカルたちの中に居場所を見つけて繁殖するのは「とても難しい」ことだという。

ケープタウンのカラカルたちは「前途多難です」とセリーズ氏は話している。

(文 HEATHER RICHARDSON、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年11月15日付]

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