日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/12/4

サウスダコタの丘からパリのオークションホールへ

ビッグジョンは、約6600万年前に死亡して古代の氾濫原に埋まり、最終的にサウスダコタ州ラピッドシティの北東約110キロに位置する、個人所有の牧場の地面の下に行き着いた。スタイン氏に偶然発見されるまでは、丘から角を突き出したまま、だれにも邪魔されることなく眠っていた。

スタイン氏らのチームが丘の斜面を掘り進むにつれ、出てくる骨の状態は良好なものになっていった。チームはトリケラトプスが埋まっていた岩層を分析し、丁寧に現場の地図を作り、写真を撮影した。こうした情報は、後の学術的な研究にとっても、商業的な販売にとっても非常に重要となる。「恐竜の骨格の発掘は、決して戦利品ねらいになってはいけないのです」とスタイン氏は言う。

ビッグジョンの発掘を丹念に記録したスタイン氏だったが、米国内の博物館の買い手を見つけるのは容易ではなかった。その理由の一つは、化石の復元作業を行わずに、大部分がまだ岩と保護のための石こうに覆われた状態で販売していたことだ。ビッグジョンを購入する人は、巨大なトリケラトプスの骨格を自分で復元しなければならない。多くの博物館は予算や保管場所が限られており、また、商業古生物学者との関わりを持ちたくなかったのだろうと、スタイン氏は言う。

20年、後にビッグジョンを競売にかけるゾイクの重役フラビオ・バッキア氏が、スタイン氏から数十万ドルでこれを購入することに合意した。

化石はイタリアのトリエステにあるゾイク本社に、20年11月と21年1月の2回に分けて到着した。5人の標本製作者が、21年7月末までかけて、トリケラトプスの骨から丁寧に岩を取り除き、骨格を組み上げた。バッキア氏のチームはまた、彫刻、鋳造、3次元(3D)プリント技術を活用して、骨格の足りない部分を埋めていった。

ビッグジョンの頭骨の大きさに圧倒されたブリアーノ氏は、「ここにあるのは競売市場に登場したことのないまったく新しいもの」であることを認識した。

販売にとってさらに都合がいいことに、ビッグジョンの頭骨はこれまでに記録されたものの中で最大であることが、イタリア、ボローニャ大学によって確かめられた。

ビッグジョンの復元作業が進むにつれ、地元の人々の関心も高まっていった。21年7月30日、ゾイクは完全に組み上がった化石標本を、トリエステの中央広場に建てた仮設建造物の中で公開した。バッキア氏によると、3日間にわたり、何千人もの人たちがビッグジョンを見に来たという。子供たちはトリケラトプスと一緒に写真をとるために長い列を作った。

ブリアーノ氏は次に、ビッグジョンをパリの高級住宅地に輸送する手はずを整え、21年9月、以前はグッチが入っていた店舗のウインドーにこれを展示した。派手な広報活動が展開され、メディアでの大々的な報道が続いたことで、ビッグジョンの知名度は高まっていった。

入札希望者からは何週間も前から問い合わせが入り始めたが、これは化石の競売にしてはまれなことだと、ブリアーノ氏は言う。多くの人が、化石の彫刻的な美しさに興味を示した。「これは神の芸術作品です」とバッキア氏は言う。

そして21年10月21日、競売が始まった。ブリアーノ氏によると、最初は数人のハリウッドセレブと、日本の大富豪、さらに米国やヨーロッパのバイヤーからの入札があった。

30分もしないうちに、残る入札者はジュアン・リバーズ氏ただ一人となった。現在、パリに住んでいるリバーズ氏は、自分はビッグジョンを自身のアートコレクションに加えたいという長年の友人のために「現場の目と耳」となったのだと述べている。リバーズ氏は今年始め、ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート内のテーマパーク「アニマル・キングダム」の副社長を退任している。

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世界最大のトリケラトプス化石の今後