2021/12/4

世界最大のトリケラトプス化石の今後

競売が終わった今、ビッグジョンの7年間の旅に関わった人たちは、複雑な思いを抱えている。

発見者であるスタイン氏は言う。「あの骨格がようやく完全に復元され、ヨーロッパの大勢の子供たちが本物のトリケラトプスを間近に見られたのはすばらしいことだと思っています。しかし一方で、あの化石を手放してしまったことが残念でなりません。新しい所有者が博物館に入れるか、少なくとも展示をして、人々があれを見て楽しんだり、学んだりできるようになることを願っています」

米国の商業古生物学者たちは長い間、自分たちのビジネスは重要な化石の発見を後押しするものだと主張してきた。利益が出るなら、より多くの人が発掘に取り組むようになるからだ。この分野で評判の良い企業の場合、高い基準で化石の発掘と標本作成を行い、科学的に重要な化石が見つかると、博物館や研究者に連絡をとる。

ブリアーノ氏は、公的な競売は、コレクターが化石を入手する合法的かつ信頼できる手段となっていると主張する。

一方で、脊椎動物古生物学会は化石の競売に反対している。個人所有の化石の研究についても、研究者や一般市民のアクセスが保証されないという懸念から推奨しない立場だ。ビッグジョンの競売が行われる前の月、同学会はオテル・ドゥルオーに書簡を送り、入札者を公的な研究機関に限定するよう申し入れたが、先方からは販売を制限することはできないとの返答があったと、同学会会長のセオドア氏は言う。

化石の取引が科学に与える影響の大きさは、それがどこで見つかったかに大きく左右される。大半の米国の商業古生物学者は、よく研究され、化石が比較的豊富なヘルクリーク累積を中心に探索を進めている。一方、モンタナ州西部など、他の地域の私有地では、見つかる化石の数はずっと少なく、その分、科学的に重要な意味をもつ可能性が高い。「わたしが心配しているのは、極めて重要なリソースが掘りつくされてしまうことです」と、バッドランズ恐竜博物館の学芸員ファウラー氏は言う。

ファウラー氏にとって最大の気がかりは、恐竜の化石が競売で取引される金額と、科学に使われるお金のあいだの大きな隔たりだ。もし、恐竜化石の売却額が科学そのもののために使われたなら、どれだけのことができるだろうかとの思いがある。ファウラー氏の年間のフィールドワーク予算は1万9000ドル(約215万円)だが、この金額でもかなりのことができる。今年の夏には、ヘリコプターを使ってティラノサウルスの骨格を空輸したが、費用にはまだ余裕があった。

コレクターがビッグジョンに支払った程度のお金があれば、ファウラー氏は将来の研究のために膨大なデータを収集することができるだろう。ファウラー氏は言う。「トリケラトプスを50体は掘り出してみせますよ」

(文 MICHAEL GRESHKO、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年11月11日付]