韓国アニメ映画『整形水』 チョ監督が打ち明ける裏話
韓国コンテンツの成長の波がアニメにも広がっている。公開中のアニメ映画『整形水』は、"整形"という現代的な要素をテーマにした異色のホラー作品。この韓国の大人向けアニメに、『名探偵コナン』シリーズでおなじみのアニメ制作会社トムス・エンタテインメントが注目。同社初の海外買付け映画ということも話題だ。
原作は、マンガアプリ「NAVER WEBTOON」で連載中のオムニバス作品『奇々怪々』の中で、特に人気の高い1作。外見にコンプレックスを持っていたイェジのもとに、巷で噂の"整形水"が届く。顔を浸した後に粘土のようにこねるだけで、理想の容姿になれるというもの。新しい人生を手に入れたかに見えたイェジだったが、次第に美への欲望はエスカレートし、同時に周囲で不審な出来事が起こり始めていく……。
本作がデビュー作となるチョ・ギョンフン監督は、アニメ化の話が来る前に原作を読んでいた。
「原作者Osdさんのファンだったので、『整形水』も連載中から読んでいました。作品のテーマの1つが"外見"。原作では"整形水"の物質そのものにフォーカスしていますが、映画ではストーリー性を際立たせるために主人公のイェジを軸に、整形水を使うことで起きる彼女の心理的な変化、喜怒哀楽を見せる映像を作ることに努めました」(チョ監督、以下同)
もともと、監督率いるスタジオアニマルは、本作のアニメ制作を担当し、チョ監督も共同プロデューサーにすぎなかった。しかし、資金繰りが難航するなか、外部から監督を招くのが難しい状況になり、自ら監督を務めることになったという。「人気作品のアニメ化とはいえ、韓国では大人を対象にしたホラーマンガのアニメ化に前例がなく、なかなか出資が得られませんでした。困難な状況の時に政府の映画制作支援制度に助けられ、なんとか公開に漕ぎ着けました」
ジャンルレスな結集が必要
初上映した富川ファンタスティック国際映画祭(2020年)で、観客から「面白い」「すごく怖かった」と評価を得たことで、「自分たちの苦労が報われたとスタッフ全員感動しました」とチョ監督は振り返る。一方、自らが苦労した韓国における大人向けアニメの立ち位置に変化があることも指摘する。
「韓国のアニメ市場は日本に比べれば小さいですが、それなりに生態系を持ってお金も動いています。これまでは『ポンポン ポロロ』(Netflixで配信中)に代表される低年齢層向けのアニメが盛んで、ジャンルもターゲットも限られていましたが、ここ4~5年でだいぶ状況は変わっています。国内だけでなく海外でも韓国作品が見られるようになり、大人向けのアニメも作られるようになっています。現在は、基盤が急速に固まりつつある段階。これから発展していく余地もあるでしょう」
実写映画やドラマ、音楽など、韓国コンテンツのグローバル人気は高まる一方だ。そのなかで韓国アニメはいかにして世界に進出していくのか。監督はジャンルを超えた連携が必要だと語る。「これまで韓国のコンテンツは、映画、ドラマ、音楽などが、それぞれのジャンルで国内モデルを作り上げ、国際市場に出ていっていた。今後は各分野の知恵や知見を共有した、新しい取り組みが必要だと考えています。ジャンルの垣根を越えて力を結集することで、よりよい韓国の総合コンテンツビジネスが生まれると思います」
そのなかで『整形水』を日本で公開する機会に恵まれたのは、本当にうれしいと話す。「私自身、宮崎駿監督作品や『AKIRA』など日本アニメが大好きだったので、なおさらです。『整形水』の公開は、今後の韓国アニメ産業にとっても意味のあること。これをきっかけに、韓国アニメに興味を持ってもらえたらうれしいです」
(ライター 数土直志、横田直子)
[日経エンタテインメント! 2021年11月号の記事を再構成]
関連リンク
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。