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僕は稽古場とかで自分からニコニコと話しかけるタイプではないし、どちらかと言うと稽古に集中するタイプ。別に友だちをつくりに行っているわけじゃないから、それでいいんだとも思っていました。今も同じような姿勢ではあるのですが、すると本当にみんな話しかけにくそうなんです(笑)。だから、そんなことはないということを僕のほうからアピールしないといけないと、最近思っています。思い返してみると、すごいキャリアなのに若手のほうにまで下りてきてくれて優しいなと思う、気さくな先輩ってたくさんいたから、そういうことだったのかという気づきがありました。

突っ込みだけじゃなく、ボケもできるように

得意な役割や関係性も少し変わってきています。僕はずっと自分は突っ込みが得意だと思ってきました。ポジションとしても、プリンスと言われてきた自分が毒を吐いたりして、鋭く突っ込んでいくのを、たぶんお客さまも楽しんで聞いてもらっていたと思うんです。

でも、年齢を重ねてきたら、言い方によってはただのきついおじさんになりかねないので、突っ込み方も考えなきゃなと思い、そうなったらボケもできるようになりました。例えば『The Musical Day~Heart to Heart~』というライブイベントの司会は宮澤エマさんと上山君で、2人とも年下なんです。彼らに「何やってるんだよ」と突っ込むこともできるけど、それよりも僕がボケて、「何やっているんですか、芳雄さん」と言われるほうがうれしかったりします。これも立ち位置の変化でしょうね。芸域が広がったという言い方もできなくはないですけど(笑)。

今、来年1月8日からシアタークリエで上演するミュージカル『リトルプリンス』の稽古をしています。土居裕子さんとダブルキャストで王子役を演じる加藤梨里香さんは23歳。そんな彼女が、僕が演じる飛行士/キツネ役の相手なので、若い俳優をサポートしつつ、一緒に楽しんで表現するというのが僕の立場ですが、今まで自分は逆の立場だとずっと思っていたので、そうじゃない状況やポジションも確実に増えているのを感じます。そして、うまく相手や周りを支えていける自分になれたらいいなとも。サポートしているから主役じゃなくて脇役ということでもなくて、主役をやりながらサポートする場合もあるだろうし、役にかかわらず自分をがんがん出すときもあるだろうから、役割や責任が広がってきたということなのでしょう。

そんなふうに、自分の立ち位置や役割がだんだん変わってきたことを感じた今年ですが、すべてはまだ道の途中です。歩みを止めることはありません。常に新しいことに挑んで、投げられた球を打ち続ける自分でありたいと思っています。

『夢をかける』 井上芳雄・著
 ミュージカルを中心に様々な舞台で活躍する一方、歌手やドラマなど多岐にわたるジャンルで活動する井上芳雄のデビュー20周年記念出版。NIKKEI STYLEエンタメ!チャンネルで月2回連載中の「井上芳雄 エンタメ通信」を初めて単行本化。2017年7月から2020年11月まで約3年半のコラムを「ショー・マスト・ゴー・オン」「ミュージカル」「ストレートプレイ」「歌手」「新ジャンル」「レジェンド」というテーマ別に再構成して、書き下ろしを加えました。特に2020年は、コロナ禍で演劇界は大きな打撃を受けました。その逆境のなかでデビュー20周年イヤーを迎えた井上が、何を思い、どんな日々を送り、未来に何を残そうとしているのか。明日への希望や勇気が詰まった1冊です。
(日経BP/2970円・税込み)
井上芳雄
 1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)、『夢をかける』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第107回は2022年1月1日(土)の予定です。


夢をかける

著者 : 井上芳雄
出版 : 日経BP
価格 : 2,970 円(税込み)