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今年の思い出 マスク姿の稽古で四苦八苦(井上芳雄)

第106回

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NIKKEI STYLE

日経エンタテインメント!

井上芳雄です。2021年最後の回なので、今年を振り返って、感じたことや考えたことを書いてみようと思います。演劇界は昨年に続いて、新型コロナウイルス感染症への対応に追われた1年でした。そのなかでも少しずつではありますが、以前の活気を取り戻しつつあるように、ミュージカルの公演などで実感しています。僕自身のことで言えば、俳優としての立ち位置が変化してきて、役割や責任の広がりを感じた年でした。

今年の劇場での仕事を振り返ると、3月はこまつ座の公演『日本人のへそ』が東京であり、4月はその地方公演でした。井上ひさしさんの劇作家としての処女作で、僕はヤクザをはじめ何役も演じ分けました。4月24日からは全国5都市でデビュー20周年コンサートツアーを予定していたのですが、緊急事態宣言を受けて、初日の千葉公演以外が中止に。本来はそのツアー最終日だった5月8日に東京国際フォーラム ホールAから5時間にわたる無観客コンサートをライブ配信しました。

6月は新作ストレートプレイ(セリフだけの演劇)の『首切り王子と愚かな女』で、久しぶりのプリンス役。愛される王子ではなく、嫌われ者の王子の役でした。そして9月から11月までは大阪・東京・福岡でミュージカル『ナイツ・テイル-騎士物語-』の3年ぶりの再演。コンサートツアーの4都市と『ナイツ・テイル』の最初の1週間がコロナの影響で公演中止になりましたが、それ以外はほとんど予定通りやることができました。本当にありがたいことです。

演劇界を世界的に見れば、ロンドンのウエストエンドは5月から、ニューヨークのブロードウェイは9月から劇場が再開されて、少しずつ動き出した1年でした。それを考えると、日本は昨年の最初の緊急事態宣言のときに公演中止や延期が相次ぎましたが、それ以降は完全に劇場を閉鎖することはなく、観客の数を制限しながらも上演を続けてきたので、すごいことだと思います。今年はさらに、コロナ禍の状況でどうやって演劇を続けるかということを、もう1歩先に進めたというか、突き詰めた1年だったと思います。

例えば配信にしても、昨年は必要に迫られて始めて、もしかしたら劇場に来るお客さまよりもたくさんの人に見てもらえるんじゃないかという期待や夢もあったと思います。でも、やってみると生の公演に取って代わるものではまだないし、この公演は配信に向くけど、これはしないほうがいい、あるいは権利的にできない、といった判断もつくようになって、今年はコロナ禍で演劇を続けていくための要素の1つとして定着して、可能性も広がりました。

僕も、1月に『箱の中のオルゲル』というオリジナル配信ミュージカルに出演し、10月にはひとり芝居で全15役を演じた『クンセルポーム・クンセル塔の娘』という配信の音声劇(おとごえげき)をやり、ミュージカルの新しい表現の形としての面白さを感じました。コンサートにしても、俳優の上山竜治君が企画したミュージカルのフェス『The Musical Day~Heart to Heart~』の2回目が来年1月30日に開催されますが、1回目の昨年は配信だけだったのが、来年は会場のブルーノート東京にお客さまを入れた上で配信するという、また1歩進んだ形になります。

それにしても、1年があっという間に過ぎたような気がします。ミュージカルもストレートプレイもやりましたが、どの公演でも思い出すのは稽古場の光景。ずっとマスクをしながら稽古を続けた記憶が強烈です。というのも、本番中の舞台上は、必死でやってるし、様子もコロナ前と基本的に変わらないんです。変わったのは本番以外で、特に今年はどの稽古場でも常にマスクをつけるのが徹底されたので、大変さを痛感しました。

しゃべりにくくて、聞こえにくい上に、ミュージカルは歌ったり踊ったりもするから、呼吸が荒くなってマスクを吸い込んでしまうけど、外せない。だから「マスクがなかったら、もう3割増しでいい演技できるんですけどね」という稽古場ジョークをみんなでよく言ってました。それくらい演技や表現に集中するのが難しい。医療用の空間が広いマスクにするとか、プラスチックのボールみたいなのを中に入れて空間を確保するとか、いろんな工夫もしましたけど、やっぱりやりにくさは同じでした。それで通し稽古くらいでメークをするようになったら初めてマスクを取って、お互いの表情や本当の顔を知るという感じでした。

無駄話や世間話をして、お互いを知る時間が少ない1年でもありました。稽古ではやるべきことだけをやって、終わったらすぐに帰るし、打ち上げで飲んで笑ってみたいな思い出もない。だから、あっという間だと感じたのかもしれません。コロナの感染対策を徹底しているおかげで、風邪もひかなかったし、体調も崩さなかったので、仕事に集中できたと言えばそうだし、ストイックに毎日を過ごしていたと思います。

自分の場合は、だからこそ新しいことを欲したし、それができた1年でもあったかなと。舞台をずっとやりながら、新しいジャンルの仕事も始められたので。4月からは早朝の音楽番組『はやウタ』(NHK総合)で初めて地上波での歌番組の司会を、5月からは朝の情報番組『スッキリ』(日本テレビ)で月1回くらいですけどコメンテーターをやらせてもらっています。ストイックに舞台をやっているぶん、新しい人に出会ったり、新鮮な経験ができるなら、ぜひそうしたいという気持ちにもなったし、学んだり調べたりする余裕もできたので、それはコロナ禍の中でもよかったことです。

「#裏切らない芳雄」がトレンド1位に感謝

うれしかったこともありました。20周年コンサートツアーが中止になり、5月8日に『裏切らない芳雄4時間フェス』という配信コンサートをやったときのこと。結果5時間になったのですが、そのときにツイッターが5万ツイート以上を記録して、「#裏切らない芳雄」がトレンド1位になりました。それってすごいことだったなと、あらためて認識しています。ミュージカル俳優の仲間がたくさん出てくれたし、ミュージカルや演劇のファンの力というか、今の状況でも熱を冷まさずに、ずっと支え続けてくれていることがひしひしと伝わってきてとてもうれしかったし、今も感謝の気持ちでいっぱいです。

ミュージカル界では、コロナ禍で昨年上演できなかった作品が今年リベンジで上演できたり、もともと予定されていたものがその通りやれるようになってきたりして、本数がまた増えています。先日放送された『2021FNS歌謡祭』(フジテレビ)で恒例のミュージカル特集があり、たくさんのミュージカルソングを取り上げていただいたように、メディアの後押しもありがたいこと。少しずつではありますが、コロナ前の活気を取り戻しつつあると思うので、来年はこのままいい方向に向かってほしいものです。

最後に、僕が個人的に感じていることを。コロナはあまり関係なくて、キャリアや年齢的なことですが、俳優としての立ち位置が変わってきたことを実感しています。ベテランとまではいかないけど、自分が思っているより立場が上というのかな。若い共演者との距離が気がつかないうちに広がっていて、こっちはフランクに接しようとしてるんだけど、相手はすごく先輩だと考えてるんだと感じることが、今までよりも増えました。

僕は稽古場とかで自分からニコニコと話しかけるタイプではないし、どちらかと言うと稽古に集中するタイプ。別に友だちをつくりに行っているわけじゃないから、それでいいんだとも思っていました。今も同じような姿勢ではあるのですが、すると本当にみんな話しかけにくそうなんです(笑)。だから、そんなことはないということを僕のほうからアピールしないといけないと、最近思っています。思い返してみると、すごいキャリアなのに若手のほうにまで下りてきてくれて優しいなと思う、気さくな先輩ってたくさんいたから、そういうことだったのかという気づきがありました。

突っ込みだけじゃなく、ボケもできるように

得意な役割や関係性も少し変わってきています。僕はずっと自分は突っ込みが得意だと思ってきました。ポジションとしても、プリンスと言われてきた自分が毒を吐いたりして、鋭く突っ込んでいくのを、たぶんお客さまも楽しんで聞いてもらっていたと思うんです。

でも、年齢を重ねてきたら、言い方によってはただのきついおじさんになりかねないので、突っ込み方も考えなきゃなと思い、そうなったらボケもできるようになりました。例えば『The Musical Day~Heart to Heart~』というライブイベントの司会は宮澤エマさんと上山君で、2人とも年下なんです。彼らに「何やってるんだよ」と突っ込むこともできるけど、それよりも僕がボケて、「何やっているんですか、芳雄さん」と言われるほうがうれしかったりします。これも立ち位置の変化でしょうね。芸域が広がったという言い方もできなくはないですけど(笑)。

今、来年1月8日からシアタークリエで上演するミュージカル『リトルプリンス』の稽古をしています。土居裕子さんとダブルキャストで王子役を演じる加藤梨里香さんは23歳。そんな彼女が、僕が演じる飛行士/キツネ役の相手なので、若い俳優をサポートしつつ、一緒に楽しんで表現するというのが僕の立場ですが、今まで自分は逆の立場だとずっと思っていたので、そうじゃない状況やポジションも確実に増えているのを感じます。そして、うまく相手や周りを支えていける自分になれたらいいなとも。サポートしているから主役じゃなくて脇役ということでもなくて、主役をやりながらサポートする場合もあるだろうし、役にかかわらず自分をがんがん出すときもあるだろうから、役割や責任が広がってきたということなのでしょう。

そんなふうに、自分の立ち位置や役割がだんだん変わってきたことを感じた今年ですが、すべてはまだ道の途中です。歩みを止めることはありません。常に新しいことに挑んで、投げられた球を打ち続ける自分でありたいと思っています。

『夢をかける』 井上芳雄・著
 ミュージカルを中心に様々な舞台で活躍する一方、歌手やドラマなど多岐にわたるジャンルで活動する井上芳雄のデビュー20周年記念出版。NIKKEI STYLEエンタメ!チャンネルで月2回連載中の「井上芳雄 エンタメ通信」を初めて単行本化。2017年7月から2020年11月まで約3年半のコラムを「ショー・マスト・ゴー・オン」「ミュージカル」「ストレートプレイ」「歌手」「新ジャンル」「レジェンド」というテーマ別に再構成して、書き下ろしを加えました。特に2020年は、コロナ禍で演劇界は大きな打撃を受けました。その逆境のなかでデビュー20周年イヤーを迎えた井上が、何を思い、どんな日々を送り、未来に何を残そうとしているのか。明日への希望や勇気が詰まった1冊です。
(日経BP/2970円・税込み)
井上芳雄
 1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)、『夢をかける』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第107回は2022年1月1日(土)の予定です。

夢をかける

著者 : 井上芳雄
出版 : 日経BP
価格 : 2,970 円(税込み)

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