今年の思い出 マスク姿の稽古で四苦八苦(井上芳雄)第106回

日経エンタテインメント!

井上芳雄です。2021年最後の回なので、今年を振り返って、感じたことや考えたことを書いてみようと思います。演劇界は昨年に続いて、新型コロナウイルス感染症への対応に追われた1年でした。そのなかでも少しずつではありますが、以前の活気を取り戻しつつあるように、ミュージカルの公演などで実感しています。僕自身のことで言えば、俳優としての立ち位置が変化してきて、役割や責任の広がりを感じた年でした。

2022年は1月8~31日にシアタークリエで上演されるミュージカル『リトルプリンス』に出演。『星の王子さま』を原作として1993年に誕生した音楽座ミュージカルの名作に挑む

今年の劇場での仕事を振り返ると、3月はこまつ座の公演『日本人のへそ』が東京であり、4月はその地方公演でした。井上ひさしさんの劇作家としての処女作で、僕はヤクザをはじめ何役も演じ分けました。4月24日からは全国5都市でデビュー20周年コンサートツアーを予定していたのですが、緊急事態宣言を受けて、初日の千葉公演以外が中止に。本来はそのツアー最終日だった5月8日に東京国際フォーラム ホールAから5時間にわたる無観客コンサートをライブ配信しました。

6月は新作ストレートプレイ(セリフだけの演劇)の『首切り王子と愚かな女』で、久しぶりのプリンス役。愛される王子ではなく、嫌われ者の王子の役でした。そして9月から11月までは大阪・東京・福岡でミュージカル『ナイツ・テイル-騎士物語-』の3年ぶりの再演。コンサートツアーの4都市と『ナイツ・テイル』の最初の1週間がコロナの影響で公演中止になりましたが、それ以外はほとんど予定通りやることができました。本当にありがたいことです。

演劇界を世界的に見れば、ロンドンのウエストエンドは5月から、ニューヨークのブロードウェイは9月から劇場が再開されて、少しずつ動き出した1年でした。それを考えると、日本は昨年の最初の緊急事態宣言のときに公演中止や延期が相次ぎましたが、それ以降は完全に劇場を閉鎖することはなく、観客の数を制限しながらも上演を続けてきたので、すごいことだと思います。今年はさらに、コロナ禍の状況でどうやって演劇を続けるかということを、もう1歩先に進めたというか、突き詰めた1年だったと思います。

例えば配信にしても、昨年は必要に迫られて始めて、もしかしたら劇場に来るお客さまよりもたくさんの人に見てもらえるんじゃないかという期待や夢もあったと思います。でも、やってみると生の公演に取って代わるものではまだないし、この公演は配信に向くけど、これはしないほうがいい、あるいは権利的にできない、といった判断もつくようになって、今年はコロナ禍で演劇を続けていくための要素の1つとして定着して、可能性も広がりました。

僕も、1月に『箱の中のオルゲル』というオリジナル配信ミュージカルに出演し、10月にはひとり芝居で全15役を演じた『クンセルポーム・クンセル塔の娘』という配信の音声劇(おとごえげき)をやり、ミュージカルの新しい表現の形としての面白さを感じました。コンサートにしても、俳優の上山竜治君が企画したミュージカルのフェス『The Musical Day~Heart to Heart~』の2回目が来年1月30日に開催されますが、1回目の昨年は配信だけだったのが、来年は会場のブルーノート東京にお客さまを入れた上で配信するという、また1歩進んだ形になります。

それにしても、1年があっという間に過ぎたような気がします。ミュージカルもストレートプレイもやりましたが、どの公演でも思い出すのは稽古場の光景。ずっとマスクをしながら稽古を続けた記憶が強烈です。というのも、本番中の舞台上は、必死でやってるし、様子もコロナ前と基本的に変わらないんです。変わったのは本番以外で、特に今年はどの稽古場でも常にマスクをつけるのが徹底されたので、大変さを痛感しました。

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