
2021年7月、中国当局はジャイアントパンダに対する30年におよぶ保護施策が功を奏し、野生下の個体数が倍増したとして、絶滅危惧種から外すと発表した。
国際自然保護連合(IUCN)は16年の時点ですでに、ジャイアントパンダの危機の度合いを絶滅危惧種(Endangered)から危急種(Vulnerable)に引き下げていたが、中国の一部の研究者と当局は、この評価は時期尚早であり、パンダ保護活動を弱体化させかねないとして、引き下げを受け入れていなかった。
だが、16年以降、状況は大きく進展した。中国は、四川省を中心に、既存のパンダ生息地の70%を包括する新たなジャイアントパンダ国立公園を設立することを決めた。世界各地の飼育繁殖プログラムで飼育されているパンダの個体数はほぼ倍増し、全部で633頭になった。さらに、気候変動がパンダとその餌である竹におよぼす影響は、従来考えられていたほどに深刻ではないとする研究成果も発表された。
「現在の個体数の増加は、20年前にはとても実現できないと考えられていました。パンダは、すばらしい成功例なのです」と、中国、復旦大学生命科学学院の保全生物学者ファン・ワン氏は語る。
しかし、専門家たちは、今回の成功は限定的なものであり、パンダの回復が保証されたわけではないと警告している。広範囲に及ぶ森林破壊と生息地の分断によって、野生パンダは、過去の生息域の1%にも満たない土地に追いやられており、新たな脅威も迫っているからだ。
自然界の不安要素
パンダの回復を促すために自然保護区を拡大するという中国当局の方針は、ウシ科の動物ターキンにも恩恵をもたらした。この動物は、長い毛で覆われた薄茶色の有蹄類で、ウシとシロイワヤギの中間のような姿をしており、体重は360キロにもなることがある。パンダの主要な保護区である唐家河国家級自然保護区では、スーチョワン・ターキン(ターキンの亜種)の数が1986年の500頭から15年には1300頭以上に増えている。
「ターキンは植生に影響を及ぼしています」と話すのは、四川省を拠点に自然保護調査を行う非営利組織チンギ・エコロジーのディアオ・クンペン氏だ。
ターキンは、木の皮をはぎとって食べる。皮をはがれてむき出しになった樹木は、真菌感染や害虫に対して無防備になる。その結果、森林の構成が変化して、高木が減少し、低木が増える。一方のパンダは高木がある竹林を好んで子育てをするのだと、ディアオ氏は言う。
森林の変化が野生パンダにもたらす影響について確定したデータはまだないが、唐家河国家級自然保護区での長期研究から、さらに手がかりが得られるだろうと、ディアオ氏は期待している。