老舗のテクノクラブ「ヴィルデン・レナーテ」で、屋内スペースの再開に向け、ベルリン市の新たな基準を満たすように換気システムを改修する建設スタッフ。屋外スペースを持たない他のクラブと同様に、このクラブは、パンデミックによる休業期間を利用して、建物の改修、増築、改善を実施した(PHOTOGRAPHS BY RUBEN SALGADO ESCUDERO)

クラブに代わるものはない

9月にベルリン市がダンス禁止令を解除したことを受け、クラブの再開は徐々に本格化した。10月には、ついにベルグハインが営業を再開し、クラブ業界は、通常営業に戻り始めた。ライヒセンリングさんの話では、クラブを訪れる旅行者は以前に比べればわずかだが、クラブ運営側の回復力とベルリン市からの171万ドルの財政支援が奏功し、ベルリンでは、コロナ禍による減収で閉店に追い込まれたクラブはなかったという。

ベルリンのクラブは、その価値を評価する社会の力で少しずつ復活しているが、「これから」については懸念もある。

独ベルリンのクラブ「キットカット」に集まった「ベルリン・クラブコミッション」のメンバー。ベルリン・クラブコミッションは、320名の会員を擁し、世界で最初かつ最大規模のクラブ運営者やイベント企画者の地域団体だ(PHOTOGRAPHS BY RUBEN SALGADO ESCUDERO)

21年8月、ベルリン市は、健康な人の活動を制限することは違法であるという決定を下した。これは、重症化リスクがある人への感染やドイツ国内や市内で急速に悪化する感染状況の抑制にワクチンが有効であるという見解に基づいたものだ。だが、クラブへの「2G」ルールと「3G」ルールの適用については、激しい議論が巻き起こった。この「G」とは、「Geimpft(ワクチン接種完了)、Genesen(コロナから回復)、Getestet(検査で陰性)」という3つのGを指す。

8月までのルールでは、クラブは、マスクを着用し、ダンスをしない客に限り、この3つのGのいずれかを証明できれば、人数を制限した上で屋内に入店させることができた。しかし、クラブでのダンスが許可されると、市は、クラブへの入店を、Geimpft(ワクチン接種完了)またはGenesen(コロナから回復)を証明できる客に限定した。その結果、Getestet(抗原検査やPCR検査で陰性)というだけでは、入店できないことになった。

コロナ検査の陰性証明を入店に必要な健康証明から除外するというベルリン市の決定に、ベルリン・クラブコミッションなどクラブ業界の多くの人々は疑問を抱いている。

また、この区分けによって、「ワクチン接種済み・回復済み」と「その他」の2つの階層が生まれることを懸念する声もある。こうした状況は、ベルリンの包括性を尊重する文化と社会主義的精神にそぐわないというのが、その理由だ。

「だれかを除外するのは、賢明なやり方ではありません」とライヒセンリングさんは話している。

トマス・ベネディクスさんは、DJデュオ・パンポットのひとり。普段は2万人のファンの前でイベントを盛り上げるが、ベルリンのクラブで屋内スペースが再開されるまでは、自宅の居間からライブストリーミングを行った。妻のメレリンデさん、子どもたちもダンスを楽しんだ(PHOTOGRAPHS BY RUBEN SALGADO ESCUDERO)

ベルリンが、健全なクラブカルチャーへの道を歩むかどうかは、時が過ぎなければわからない。だが、ひとつだけ確かなことがある。それは、いずれにしても、ベルリンはダンスを続けるだろうということだ。

「クラブがなくなれば、私たちは、ベルリンの心、ベルリンの魂を失うことになります」と、クルーガーさんは話す。「クラブが消滅したら、ベルリンは死んだも同然です」

コンサート会場として知られるアリーナ・ベルリンは、パンデミックでワクチン接種会場となった。スタッフの大半は、クラブなど夜間の仕事に従事していた人々だ(PHOTOGRAPHS BY RUBEN SALGADO ESCUDERO)

(文 ARIKIA MILLIKAN、写真 RUBEN SALGADO ESCUDERO、訳 稲永浩子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2021年12月6日付]