15年間目撃されていないハチ 米国で絶滅危惧種に指定

日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/10/1
ナショナルジオグラフィック日本版

フランクリンズ・バンブルビーがルピナスから花粉を集めている様子をとらえた、貴重な1枚。2000年に米オレゴン州南部のアシュランド山で撮影された。フランクリンズ・バンブルビーは、ハチのなかで最も生息域が狭い種の一つで、オレゴン州とカリフォルニア州の州境のみで目撃されてきた(PHOTOGRAPH COURTESY OF BRENDAN WHITE/U.S. FISH AND WILDLIFE SERVICE)

 2006年を最後に目撃されていないマルハナバチ、フランクリンズ・バンブルビー (Bombus franklini)を米国の絶滅危惧種に指定すると、21年8月24日、米類野生生物局が発表した。

今回の指定は同国の「絶滅危惧種法(ESA)」に基づくもの。マルハナバチが指定されるのは、米国で2例目、米国西部に生息する種としては初めてだ。17年には、かつて米国内の28州で目撃されていたマルハナバチ、ラスティーパッチド・バンブルビー(Bombus affinis)が絶滅危惧種に指定されている。

20世紀のハチ研究者の名に由来するフランクリンズ・バンブルビーは、殺虫剤や病原菌、限られた生息域など、いくつもの脅威にさらされている。生息域は、カリフォルニア州とオレゴン州の州境の約3万4000平方キロメートルの地域のみで、ひょっとすると、マルハナバチの生息域としては世界で最小かもしれない。

このマルハナバチは15年間にわたって目撃されていないが、保護に取り組む研究者たちは、まだ絶滅していないと考えている。今回、絶滅危惧種法の対象となったことで、このマルハナバチに危害をもたらす恐れがある行為が広く禁止されるだけでなく、生息数回復のために州が行う調査や対策に対する連邦政府からの補助金が増えることになる。

フランクリンズ・バンブルビーの保護を担当する魚類野生生物局の野外生物学者、ジェフ・エベレット氏は「きっと見つかると信じています」と話す。「居場所さえ確認できたら、もっと強力で有効な保護策を実施できます」

フランクリンズ・バンブルビーは、さまざまな野生の花の間を飛び回り、おもにルピナスやポピーから花粉を、ミントからは蜜を集めている。だが、この種についてわかっていることは非常に少なく、こうした花々や生態系全体にとっての重要性もほとんど明らかになっていない。しかしながら、一般にマルハナバチは重要な送粉者であり、生息数が減少すれば、生態系にさまざまな影響をもたらしかねない。

姿を消したハチの捜索

フランクリンズ・バンブルビーは、100年前に初めて特定されてから325回しか観察されていない。その多くは、米カリフォルニア大学デービス校の昆虫学教授だったロビン・ソープ氏による記録だ。1998年にソープ氏は98匹の個体を確認。しかし、06年に1匹だけ見つかったのを最後に、まったく目撃されなくなった。

そこで10年、ソープ氏とザーシーズ無脊椎動物保護協会(Xerces Society for Invertebrate Conservation)は魚類野生生物局に、フランクリンズ・バンブルビーの絶滅危惧種指定を求める請願書を提出した。19年、ソープ氏の死去から2カ月後、魚類野生生物局は絶滅危惧種への指定案を公表した。

「フランクリンズ・バンブルビーが15年間も目撃されていないのは、たしかに心配です」と、ザーシーズの保全生物学者であるレイフ・リチャードソン氏は話す。「しかし、さじを投げて絶滅を宣言するには、まだ早すぎます」

エベレット氏も、諦める前にできる調査がまだたくさんあると話す。

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再発見の希望を抱いて