TikTokでバズった「ダンク祭り」 縦型動画で魅力増す
書籍『TikTok ショート動画革命』(2)
Bリーグ東地区の強豪チームとしてバスケットボールファンの間では、すでによく知られている「川崎ブレイブサンダース」は、経営母体がIT企業のDeNAということもあり、デジタルやオンラインへの取り組みを積極的に展開してきた。2019年には公式YouTubeチャンネルを開設、再生数が170万回を超える動画を生み出すなど人気を集め、集客につなげたという成功体験もある。
若年ファンが多いバスケとTikTokは好相性
しかしながら、コロナ禍で思うように集客がかなわなくなった20年、SNSの運用を担当するDeNA川崎ブレイブサンダース・事業戦略マーケティング部部長の藤掛直人氏は、チームのさらなる認知度アップを目指してTikTokの導入を検討し始めた。野球やサッカーに比べると、Bリーグのファンの年齢層は低いため、若い世代に支持されるTikTokは相性がいいと考えたのだ。さらに、TikTokが基本「おすすめ」フィードを見る文化であることから、新しい人たちにもリーチできるとの期待も大きかった。
そこで藤掛氏は様々な人脈をつたい、TikTokのスタッフにアプローチを試みる。「YouTubeが成功したのも、トレンドやフォーマットに則った動画を作ったからなんです。『郷に入っては郷に従え』じゃないですけど、どうすればTikTokユーザーに響くのかを徹底的にヒアリングし、開設後の施策を考えていきました」(藤掛氏、以下同)。その熱心な姿がTikTokを動かすことになる。Bリーグのチームとして初となるパートナーシップを締結することになったのだ。「いろんな動画施策を迅速にTikTokで展開しようと考えていたことに価値を感じてもらえたようでした。一緒にスポーツでの成功事例を作り、スポーツ界にTikTokを広めていきましょうと」
縦型動画はバスケの迫力を伝えるのに最適
20年9月にアカウントを開設。試合映像から切り出したプレー集や選手の紹介動画などを投稿していったが、当初は再生数がなかなか伸びなかったという。投稿を続けるなかで、尺を長くしすぎないほうが再生回数が伸びると気が付いた。「それ以前にYouTubeで制作してきた動画は10分20分を超えるものも珍しくありませんでした。TikTokのようなショート動画では、より直感的な分かりやすさが必要で、できる限りコンパクトにまとめるよう心掛けていきました」
試合中の映像からプレー集を作成する際は、もともと横型で撮影されたものをTikTokに合わせて縦型に切り取るが、この作業も慣れるまでは大変だったという。「最初は、幅の狭い縦型の映像でボールや選手の動きを見やすくすることに苦労しました。ただ、縦だと1人にギュッと寄った画が作れるため、ダンクシュートなどのシーンでは横形よりも迫力のある映像に仕上がる。そんな利点も徐々に分かってきましたね」。運用前から想定はしていたことだが、サッカーなどに比べて攻守の切り替えが速く、点もたくさん入るバスケットは、1試合の映像から数多くのハイライト動画を作れるため、TikTokと相性が良いと確信したそうだ。
これまでに投稿した動画のなかで、特に大きくバズったのは、21年2月の「ダンク祭り」。21年11月現在、200万再生を超えている。川崎の選手が次々と現れてダンクシュートを決めていく、シンプルかつインパクトのあるビジュアルが評判となった。各選手の華麗なダンクシュートに集中してもらうために画面上のテキストは最低限の説明に絞り、選手が登場するごとに国旗のアイコンと身長だけを表記したという。「実はこれにはもう1つ意図があって。海外ユーザーの方も理解できるよう、日本語は使わず非言語でのコミュニケーションを意識しました。海外の方からの評判も良くて、英語、韓国語、ロシア語などでもコメントが書き込まれて盛り上がりました」
流儀にならおうと、TikTok内での流行も取り込む。例えば、指を鳴らしながら叫んで走り去る動画が世界中でバズった人気TikTokクリエイター・指男の音源を活用したミーム動画なども投稿している。「指男さんのミーム動画は練習中に選手にお願いして撮影したんですが、TikTokで話題の動画だけに反響は大きかったですね。コメントが多く寄せられたのも印象的でした。コメント欄の盛り上がりと再生回数は関連しているので、動画ごとにどんなコメントが付くのかなども意識しています」
人気TikTokクリエイターとのコラボも展開
川崎ではパートナーシップの強みを生かし、TikTokとの様々なコラボレーションも展開している。20年10月には日本のプロスポーツクラブとして初のTikTok LIVEに挑戦。さらに、人気TikTokクリエイターともタッグを組む。20年11月に2人組の伊吹とよへを招いて制作した動画は400万再生を記録。翌年2月に2人がホームゲームに来場した際は、チアリーダーの楽屋を訪れる様子などをTikTok LIVEで配信し、話題を呼んだ。
3月には、TikTokフォロワー数が日本女性最多のクリエイター、景井ひなを迎えてTikTok LIVEを配信し、その際に観戦チケットが当たるプレゼントキャンペーンを展開。新たなフォロワーの獲得に結び付けることに成功した。後日、景井はホームゲームにゲストとしても参加し、TikTok LIVEで選手から伝授された「レッグスルーチャレンジ」をハーフタイムに披露するなど、生の試合の魅力の喚起にもTikTokをうまく利用している。
「TikTok LIVEを見たいからという理由で、新たにアカウントをフォローしてくださる方も多いので、コラボレーションは重要だと思います。またTikTok LIVEは、質問やリクエストにもその場で応えられるインタラクティブなところが強みですね。景井さんを迎えたプレゼントキャンペーンでは、潜在的にバスケの試合を見たいと思う方がこんなにいるのかと、うれしい驚きがありました」
不特定多数にアピールできるTikTok
TikTokは、アカウント開設時に各プラットフォームの位置付けを明確にした上で運用をスタートした。もともとはファンを獲得するためのファーストステップとなる"認知の拡大"はYouTubeでと位置付けていたが、TikTokがそこを担えるように運用を続けてきた。「TikTokは媒体の特性として、まだバスケットの魅力を知らない人たちにも届けられるため、認知してもらうには1番効率がいいですね。そして、選手のキャラクターなどを知ってもらうために長めの動画を置いて"興味の喚起"を促す、YouTubeへとつなげることを意識しています。実際にTikTokを始めてからYouTubeの再生数も伸びてきており、導線がうまくできてきたのかなと。その後に、LINEアカウントの登録にまで持っていけると、来場の可能性はかなり高まると感じています」
なお、川崎ではデジタル領域の"空白地帯"だったという試合中にも、新たな楽しみを創出する予定。現在、「PICKFIVE」というアプリを開発中だという。「試合で活躍しそうな選手を予想し、その活躍度によって獲得できるスコアをユーザー同士で競い合うデジタルカードゲームで、22年2月のリリースを目標にしています」。さらに、試合のハーフタイムなどではTikTokを活用した「#ひらめきTikTok」というクイズイベントをスタートした。リアルの場でもTikTokをはじめとしたデジタルツールによって、バスケットの楽しみ方を広げていきたいと考えているようだ。
BGMとして使われた楽曲が相次いでヒットしたのを振り出しに、小説やコスメ、食品・飲料、高級車や高級旅館まで、動画で紹介された商品が次々と人気になり、"TikTok売れ"なる言葉も定着。TikTokは「消費を動かすプラットフォーム」として、最注目のツールとなった。その高い拡散力の源はどこにあるのか? 実際にTikTok発で売れた商品はどんな施策を行ったのか? ヒットを誘うクリエイターたちの動画作りの秘訣は?など、TikTok Japan初の全面協力の下、豊富なケーススタディと関係者インタビューを通じて、"TikTok売れ"の極意を明らかにする。(日経BP/1760円)
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