日経ナショナル ジオグラフィック社

これと並行して、フランス、パリにあるパスツール研究所のフェリックス・レイ研究室が、感染時のタンパク質の形を特定した。こうして、標的とするタンパク質の変異前と後の、いわゆる「ビフォーアフター」画像が作成された。

「初めてこうした構造を見るときは、いつも気分が高揚します。そのタンパク質がどんな形をしているのか、世界で初めて自分が目にすることになるのですから」と、マクレラン氏は語る。

これらの画像のおかげで、抗体がいつどこでウイルスに結合するのかがわかり、なぜ効果的なのかも明らかになった。ある抗体はタンパク質の変形を阻止していたのに対し、別の抗体はヒトの細胞への侵入を妨げていた。この研究を基に、より良い治療薬やワクチンの開発が期待できるだろうと、マクレラン氏は言う。

プロトタイプワクチンで次に備える

構造ウイルス学と構造ベースワクチンは、人類とウイルスとの戦いに希望をもたらすものだが、すべての病原体に適しているわけではない。構造ウイルス学は抗体に焦点を当てているが、免疫系のもう一つの重要なプレイヤーであるT細胞の方が効果的に撃退できるウイルスや寄生虫もあると、セバナ氏は言う。

また、一部のウイルスについては、回復者の強い抗体を手に入れるのが難しいとマクレラン氏も指摘する。感染後急速に悪化し、致死率が高いウイルスの場合、血液を採取できる生存者が十分にいないためだ。

マクレラン氏は、病原体の基本の型となるプロトタイプを定め、未知の感染症も含めて将来起こりうる流行に備えることを提案している。

「新たな病原体が現れたとき、治療薬やワクチンを開発するためにいちいち最初からすべての段階を踏んでいる暇はありません」。そうなったときのために、研究者はまず同じ仲間のウイルスを標的とすることができる。

「例えば将来、どのハンタウイルスがエピデミックを引き起こすかはわかりませんが、ハンタウイルスはほとんどが似ていると推測することはできます。そこで、プロトタイプのウイルスに対して構造ベースワクチンを設計しておけば、新たな変異株が出てきても、持てる知識をすべて使って迅速に対応できるでしょう」

(文 JILLIAN KRAMER、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2022年2月9日付]