「プラごみ削減」世界の足並みがそろった歴史的瞬間

ナショナルジオグラフィック日本版

カナダの活動家兼アーティスト、ベンジャミン・ボン・ウォン氏による高さ約9メートルのモニュメント。テーマは「プラスチックの蛇口を閉めよう」。ケニア、ナイロビ最大のスラム街キベラで回収したプラスチックごみを使用。国連ナイロビ事務所の外に展示されている(PHOTOGRAPH BY TONY KARUMBA, AFP/GETTY)

高さ9メートルの位置にある巨大な蛇口から、大量のプラスチックが吐き出されている。アフリカ、ケニアの国連ナイロビ事務局にあるアート作品だ。

ここナイロビ事務局で2022年3月2日、プラスチックごみの蛇口を閉めるための正式な一歩が踏み出された。175カ国の国連代表団が、プラスチック汚染を抑制するための国際条約に向けた交渉を開始することに合意したのだ。これは、環境関連では15年の「パリ協定」以来、最も重要な合意と評価されている。

22年2月末、決議に先立って合意の枠組みが示された。これが5月に始まる条約交渉のロードマップとなる。国連環境計画(UNEP)事務局長のインガー・アンダーセン氏は代表団に、「これは歴史的な瞬間です」と語りかけた。

東京でリサイクルを待つペットボトル。国連はプラスチックごみ問題に対処するため、国際条約の交渉を開始することに合意した(PHOTOGRAPH BY DAVID GUTTENFELDER, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

海に流れ出すプラスチックごみは40年までに3倍に増えると予測されている。だが、国際合意に向けた取り組みは、スタートラインに立つだけで5年近くを要した。国連の取り組みは決して早いとは言えない。

プラスチックごみの問題はどれほど深刻なのか、なぜ拘束力のある国際条約が必要なのかを説明しよう。

Q:国際条約はプラスチックごみ問題にどんな効き目がある?

A:各国にプラスチックごみの除去を約束させることで、問題の核心に取り組むことができる。例えばパリ協定は各国に温暖化ガスの自発的な排出削減を求めているだけだが、法的拘束力を持つ条約となれば、より強い効果がある。「『パリ・プラス』と言っていいでしょう」と、英国の環境調査エージェンシーで海洋キャンペーンを担当するクリス・ディクソン氏は語る。「この条約があれば、目標達成の志を持ち続けることができます。これは旅の始まりであり、終わりではありません」

Q:条約の合意はいつ?

A:2年以内に合意する計画だというが、これは国連としては驚くべきスピードだ。国連がプラスチックごみ問題の対策を検討し始めたのは17年。19年には、1人当たりのプラスチックごみ排出量が最も多い米国で、当時のトランプ政権が条約に反対し、交渉開始を妨げたと非難された。21年11月、米国は方針を転換し、フランスとともに、法的拘束力のある条約への支持を表明した。今回のアプローチは、わずか3年余りで締結された「水銀に関する水俣条約」をベースにしている。気候変動に関する合意ほど時間はかからないかもしれない。

Q:条約への取り組みが前進したきっかけは?

A:プラスチックごみは近年急激に増えており、世界のあらゆる場所で記録されている。プラスチックの生産量の急増にともない、廃棄物問題の緊急性も高まっている。その結果、世界的な条約を求める声が各方面から聞こえるようになった。米国化学工業協会は19年の時点で法的拘束力を持つ条約に反対していたが、現在は支持に転じている。ペルーとルワンダ、そして日本から2つの案が出され、雪だるま式に支持が拡大した。2月、ナイロビに交渉者が集まったときには、300人以上の科学者、140以上の国、100人近い多国籍企業のリーダーが国際条約への取り組みを公に支持していた。ザ・コカ・コーラ・カンパニー、ペプシコ、ユニリーバなど、プラスチックを最も使用している企業も含まれていた。