
気候変動の影響は、世界最高峰エベレストにも、間違いなく及んでいる。エベレストの標高8000メートルにある氷河を調査した研究者らによると、この氷河では毎年、数十年分に相当する量の氷が失われているという。学術誌「Climate and Atmospheric Research」に2022年2月3日付で研究成果が発表された。
論文によると、エベレストのサウス・コルにある氷河の質量が1990年代に比べて半分ほどに減少している可能性があることがわかった。今世紀半ばには、この氷河が完全に姿を消してしまうかもしれないという。原因は、一帯の温暖化だ。
今回の研究は、19年にナショナル ジオグラフィック協会と時計メーカーのロレックスが行った調査「パーペチュアル プラネット・エベレスト・エクスペディション」に基づく成果だ。調査には、ネパールや世界各国の34人の科学者やシェルパたちが参加した。
調査隊を率いたのは、雪氷学者で米メーン大学気候変動研究所所長のポール・マヨウスキー氏。調査内容は、アイスコアや生物サンプルの採取、高解像度の地図の作製、水質の検査、エベレストの氷河の歴史に関する調査など多岐にわたる。また、調査チームが気象観測所を設置した5カ所のうち2カ所は、世界一標高の高い場所にある気象観測所だ。
マヨウスキー氏は、「エベレストの南側で行われた実験としては、これまでで最も科学的に完成度が高い実験でした」と話す。

エベレストに6回登頂した登山家のライアン・ウォーターズ氏(今回の研究とは無関係)によると、サウス・コルの氷河は登頂の最終段階に姿を現すという。「キャンプの上方に見えるエベレストから、この氷河の大量の雪や氷が迫ってくるように見えるのです」
現在、気候変動の影響で、世界中の山岳氷河が急速に解けている。そのなかで行われた今回の調査の重要な目的の一つが、このサウス・コル氷河だ。ただし、マヨウスキー氏によると、こうした高所の氷河については、あまり詳しいことはわかっていない。
「このような高所では、かなり気温が下がります。サウス・コルはエベレストの標高約8000メートル地点にありますが、そのような場所にある氷河も解けているのかどうか。それを突き止めることが、調査の目的の一つでした」