日経ナショナル ジオグラフィック社

WE0913Aは時速8000キロ前後の猛スピードで月に向かって衝突し、完全に破壊された。地球と違って月には大気がないため、減速することもない。

衝突により、月面には直径18~30メートルのクレーターができただろう。米航空宇宙局(NASA)の月周回衛星「ルナー・リコネサンス・オービター」が数カ月以内に衝突現場の画像を撮影する予定だが、正確な衝突地点はまだわからないため、新しいクレーターを特定するには時間がかかるかもしれない。

このような衝突は以前にもあった?

「答えはほぼ間違いなくイエスです」とマクダウェル氏は言う。氏は、宇宙時代の始まり以降、月と衝突する可能性のある軌道に50個ほどの物体が打ち上げられたと推測している。しかし、追跡データが少ないため、それらが最終的にどうなったのかはわからないと説明する。

宇宙に打ち上げられた物体のいくつかは、私たちが気づかないうちに月に衝突した可能性が高い。月にぶつかる以外にも、太陽を周回する軌道に入った物体や、まだ安定しない軌道にいるか、地球の大気圏で燃え尽きた物体があることがわかっている。

また、人類はすでに何度か意図的に宇宙船を月に衝突させたことがある。それは科学研究が目的だった場合もあれば、単に月探査を終わらせるためだったこともある。

「私たちは月に『人新世爆撃期』とでも呼ぶべき時代を創り出そうとしています。(人新世とは)人類の活動が創り出す地質時代のことであり、月面にも活動の痕跡を残すことになるでしょう。そんな時代が、すでに始まっているのです」とオーストラリア、フリンダース大学の宇宙考古学者で、宇宙にある人工物の物理的記録を研究しているアリス・ゴーマン氏は言う。

宇宙ゴミをもっときちんと追跡する必要があるのでは?

米軍を含む多くの組織が、レーダーを使って地球周回軌道上のさまざまな物体を追跡している。大気圏のすぐ上から高度3万5000キロ以上まで、あらゆる高度を飛ぶ人工衛星が監視されている。

しかし、地球周回軌道を外れた宇宙ごみは、ほとんど誰も追跡していない。人工衛星は小さい上に、月や太陽などの明るい天体があるせいで、あまり遠くに行ってしまうと見つけるのが難しいのだ。また、これらの物体が小惑星監視プログラムで発見されたとしても、新しい天体の発見を期待する天文学者たちは喜ばない。

この状況を変える必要があると声を上げる専門家は多い。22年は12前後の月探査ミッションが実施される予定だが、そのうちのいくつかは宇宙に新たな衝突体を残してしまう可能性がある。

「いつの日か、このような現象は月の外側から単なる好奇心で見る対象ではなく、月周回軌道や月面にいる人々を不安にさせるものになるでしょう」とゴーマン氏は言う。使用済みのロケットを太陽周回軌道に移動させることを義務付けるなど、宇宙ごみの適切な捨て方に関するルールを改良するべきだと、ゴーマン氏らは指摘する。

(文 NADIA DRAKE、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2022年3月7日付]