「1円安くするのは誰でもできる」

ただ、5000円という価格設定は、当面下げるつもりはないそうだ。「送料もあるので、あまり安くしても満足できるものを入れられない。例えば、3000円は割安な金額だと思うが、満足度はそこまで上がらず、解約率が高くなる懸念もある。まずは5000円という価格に納得してもらえるように工夫していく」(文氏)

こう判断するのには、顧客満足度を上げる目的以外にも、大きく2つの理由があるからだ。1つは、SDGs(持続可能な開発目標)や循環型社会といった社会的な価値観が浸透し、廃棄予定商品を扱う競合が増えてきたこと。もう1つは、安売りしないことで仕入れ先との関係を良好に維持するためだ。

文氏はロスゼロを創業した18年当時と現在を比べると、「圧倒的に競合が多くなった」と話す。

「(創業当初の18年は)楽天グループで『食品ロス』と検索したら、検索結果はほぼゼロだったが、今現在では7000件以上ヒットする。昔から『処分価格』『訳あり価格』と名付けて安売りしていた方々が、ただ単にはやりのキーワードとして『食品ロス』と付けて販売しているケースがある」(文氏)

しかも、商品を売るためにトレンドに便乗する人は、「価格帯を下げる傾向にある」と文氏。そうした同業他社との差別化を図るためにも、商品の価格をあえて落とさず、自社のブランディングや見せ方に注力することが重要と説く。

販売商品の価格の維持は、仕入れ先との良好な関係性の維持にも重要だ。もちろん、破格の値段で売れば消費者には喜ばれるだろう。しかし、メーカーにとっては実入りが少なく、何より自社の製品が安く売られることでブランド毀損にもつながる。ビジネスを安定させ、長期的に食品ロスを削減するためには、消費者と仕入れ先の両者に満足してもらう塩梅(あんばい)が必要だ。

価格を維持しつつ、ユーザーに購入してもらうため、食品ロス削減に関する社会活動の発信を強化する。ロスゼロは、西武池袋本店や大丸などの百貨店に期間限定の特設売り場を作って販売したり、医療従事者やこども食堂に商品を提供したり、インターンの大学生にコラムを寄稿してもらったりと、自社が行う食品ロス低減の啓蒙活動をサイトで紹介する。

このほか、SDGsや地球環境に関するテーマのコラムや、イベントリポートなどもあり、同社のサイトに掲載されている読み物は500本を超えた。時にはファンミーティングも開催して、ユーザーの声にも耳を傾ける。商品自体の魅力だけで勝負するのではなく、ロスゼロの理念に共感を持ってもらえるようなブランディングを行う。

「食品ロスが生まれる背景を知ってもらわないと、マーケットが成熟しないので売るのも難しい。自社の活動を通して、消費者と会話が生まれ信頼度もアップしていくと考えている」と文氏。利益だけを追求せず、手間暇かけて食品ロス問題を発信していくことで、安定した基盤を固めたい考えだ。

「1円安くするよりも、どうすれば1円高い価値を生み出せるか。安売りするぐらいなら、ロスゼロが存在する意義がない」とまで言い切る文氏。需要と供給のバランスを考慮して価格を保ちつつ、余剰食品を購入してもらうための努力が実を結ぶか。その手腕に注目したい。

(ライター 佐藤隼秀、写真提供 ロスゼロ)

[日経クロストレンド 2021年12月9日の記事を再構成]

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