日経エンタテインメント!

今しか聞けない言葉がある

武田自身、TBSラジオのヘビーリスナーだった。子どもの頃から声を聴いていたあの人たちと自分が今、同じ仕事をしていることに、時々「うわっ」と思っていた。

『開局70周年記念 TBSラジオ公式読本』 貴重なラジオ史であり、個人史でもある楽しい読本。ラジオ話のみならず、パーソナリティーの人生そのものにも迫る超ロングインタビューを中心に、TBSラジオの70年を多角的にたっぷりと。『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』現場レポートでは、生放送番組がどんなふうに作られていくのかを記録。「ファスト」な時代におけるラジオの意義を考えた、武田と神田伯山との対談も興味深い。ラジオ初心者にもおすすめ。責任編集/武田砂鉄(リトルモア/1760円)

「だから今回は、目の前に高い山があるのは分かっていました。でも、いざ取材が始まったら、予想以上の高さに圧倒されて。しかも、まだ登ろうとしてるんですよ、歩幅大きめで。まだ山高くなんのか、って」

「ラジオの原体験は空襲情報」という大沢悠里の語りは、70年という時の流れを強く印象づける。

「過去の記録や未来予想ではなく、今を切り取れば、その断面にはいろんな歴史がこびりついているんです。どんな文化、芸術も、戦後に拡張していったわけですが、悠里さんのようなラジオ第1世代の言葉が今に至る1本の線でつながっている。それって、本当に大切で、だからこそ言葉を聞いておかなくては、と思う。この仕事、できてよかったです」

でも「またやって、と言われたら丁重に断る」ほどの、大変な、だからこそ意義深く、何より読んで楽しい、稀有(けう)な1冊。そして、ラジオが聴きたくなってくるのだ。

武田砂鉄
 1982年、東京都生まれ。出版社勤務を経てライターに。2015年『紋切型社会』がBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。主な著書に『わかりやすさの罪』『偉い人ほどすぐ逃げる』『マチズモを削り取れ』ほかがある。TBSラジオ『アシタノカレッジ』金曜パーソナリティーを務める。今回の仕事ではTBSラジオのヘビーリスナーである母親のエピソードも随所に登場し「珍しく親孝行になった」。

(ライター 剣持亜弥)

[日経エンタテインメント! 2022年2月号の記事を再構成]