私はと言うと、「酒と健康」をテーマに取材を続けていたおかげで、専門家のアドバイスのもと、飲酒量を適度に減らすことができた。すると、体調が目に見えて変わり、体重と体脂肪はともに減り、中性脂肪も基準値に収まるようになった。
逆流性食道炎は完治していないものの、胸焼けは改善し、肌の調子まで良くなった。
変わったのは体調面だけではない。ダラダラと惰性で酒を飲まなくなり、酒を料理とともに時間をかけて楽しむようになったのは大きな成果だ。
できるだけ正確な知識をもとに飲み方を見直す
そして、「酒と健康」をテーマに執筆を続けた連載「左党の一分」の成果をまとめた書籍が、新刊である『名医が教える飲酒の科学』だ。
酒との付き合い方を考え直すタイミングで必要なのは、できるだけ科学的に、客観的に、酒が人間の体に与える影響を知ることだと思う。
酒を飲み過ぎれば病気になることは、誰しも頭では理解している。しかし、そうは言っても飲む量を減らしたくない酒好きとしては、どれぐらい飲めばどんな病気のリスクがどれほど上がるのか、なるべく正確に把握したい。人によって体質は異なるが、自分が酒を飲むことでどんな病気に気をつけたほうがいいのかが分かれば、少しは安心して酒が飲めるようになるはずだ。
世の酒好きを代表して、さまざまな病気のスペシャリストや、酒の人体への影響について研究する専門家のもとを訪ね、その専門的な知見をできるだけ分かりやすく解説してもらった。その成果が『名医が教える飲酒の科学』なのだ。
例えば、先ほどのアンケートでも、「最近、酒に弱くなった」という悩みを持つ人は多かったが、なぜ人は酒に弱くなったり強くなったりするのか、そもそも酒の強さの正体とは何なのかについては、本書の冒頭で解説している。
そのほか、いつまでも健康でいられる「適量」についてや、二日酔いのメカニズム、健診結果が悪い人が飲み続けるとどうなるかなど、酒との付き合い方を考えるうえでの基本となる知識についてもまとめた。
また、飲み過ぎると下痢になるのはなぜか、という話を取材で腸の専門家に聞いたときは、目からウロコが落ちた。おなかを壊さないような飲み方を心がければ、二日酔いなど、酒によるさまざまな後悔についても防ぐことができる。こうした、後悔しない飲み方のコツについては、私自身とても参考になった。
そして、病気について。アンケートでも、「お酒に関連して、どのような病気が心配ですか」という質問に対して、がんをはじめ、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、膵炎や逆流性食道炎、アルコール依存症などの回答が多かった(下図)。
これらの病気については、そのメカニズムや、酒がどのように影響を与えるのか、そして飲み方にどのように工夫すればリスクを抑えられるのかについてそれぞれまとめている。自分が気になる病気について、しっかり読んでほしい。
「お酒に関連して、どのような病気が心配ですか」(複数回答可)

納得できる飲酒量で健康を手に入れたい
これまでの取材を通じて得た知識と専門家のアドバイスのおかげで、私自身、飲酒量を減らすことに成功した。それもイヤイヤ減らしたのではなく、納得した上で、きちんと酒を楽しめる余地を残しながら、休肝日を設けることにも成功したのである。
もちろん、コロナ禍が終わり、飲食店で昔のように酒が飲めるようになった暁には、どうなるか分からない。外飲みの楽しさのあまり、飲酒量がリバウンドしているかもしれない。だがそのときにはまた、この本を読み返し、わが身を振り返って飲み方を考え直してみたいと思う。
『名医が教える飲酒の科学』は、読むだけで「飲酒寿命」が延びる“バイブル”になるよう、著者として心を砕いたつもりだ。これを酒瓶とともにそばに置いていただけたら、酒好きのひとりとしてこれほどうれしいことはない。
(図版制作 増田真一)
[日経Gooday2022年3月10日付記事を再構成]
