日経ナショナル ジオグラフィック社

一方で、米カーネギー自然史博物館のカタツムリ研究者、ティモシー・ピアース氏は第三者の立場で、小さいことは良いことばかりではなく、困難もあると指摘する。おそらく、このカタツムリにとっては、卵を産まなければならないことが主な制約になっている。卵は殻の開口部に合った大きさでなければならないが、このカタツムリの開口部の幅は約200ミクロン(1000分の1ミリメートル)しかない。200ミクロンと言えば、人間の髪の毛約2本分だ。

さらに厄介なのは、産卵される前から卵の中で殻が成長しはじめることだとピアース氏は言う。脳や肺や心臓などの臓器も、殻の中に収めなければならない。

限界への挑戦

これまでの世界最小の陸生貝は、2015年にボルネオ島で発見された「アクメラ・ナナ(Acmella nana)」で、殻の大きさはA.プサミオンと同程度だが、平均重量は約20%重い。今回の発見にあたりそれぞれの体積を計算した結果、A.プサミオンが0.036立方ミリメートルで、A.ナナが0.044立方ミリメートルだった。

陸生貝ではなく海生貝なら、この2種よりもさらに小さいものがいくつか知られている。論文の共著者であるカーネギー自然史博物館のカタツムリ専門家、エイディン・エルスタン氏は、海生貝は乾燥のリスクがないため、小さくても生き延びられるのだろうと考えている。

体が小さくなると、体積に対して表面積が大きくなり、水分が蒸発しやすくなる。カタツムリの場合、水分の多い体を殻の外に出して移動しなければならず、特に水分を失いやすいとエルスタン氏は言う。

乾燥のおそれがあるせいで、「最小のカタツムリが進化できる場所は、気候の安定した地域か、洞窟のように年間を通じて湿度が高い特定の場所に限られるのかもしれません」とヨッフム氏は言う。

研究者たちは、新種のカタツムリについて、何を食べ、何に食べられるのかなど、もっと詳しく知りたいと考えている。ヨッフム氏は、まだ発見されていない小さなダニやヤスデが、このカタツムリを食べているのかもしれないと言う。ピアース氏は、アリやカニムシに食べられている可能性もあるとみる。

ヨッフム氏は、この発見は分類学の重要性を強調するものだと言う。一般にはあまりなじみがないかもしれないが、新種について記載し、系統樹のどこに位置づけられるかを説明する分類学は、生物学やその他の科学分野にとっては重要な学問だ。

「分類学者は植物や菌類や動物を同定することができます。彼らなしでは、ほかの科学者は自分が何を扱っているのかもわかりません」

(文 Douglas Main、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年2月4日付]