2022/4/3

もっとも、ブルースとともに過去3回、この地域に調査に入った私の経験から言えば、彼は旅の途中でみるみる元気になることがある。

ここはアマゾンの多雨林の北端にある「パイクワ川流域」と呼ばれる地域で、生物多様性に富むが、絶滅が危惧される種が多い、いわゆる「ホットスポット」だ。ブルースの主な研究対象はカエル。そして地球上にカエルの楽園があるとすれば、ここはまさにその名にふさわしい。

調査中に出合った、まだ命名されてないステファニア属のカエル。ウェイアシプ山の麓の森にいた(PHOTOGRAPH BY RENON OZTURK)

カエルは世界中のどんな生態系でも重要な役割を担っているが、この地域のような赤道直下の多雨林ほどカエルが古くから生息してきた場所はほかにはない。この地域のカエルたちは、気の遠くなるような長い時間をかけて、独自の進化を遂げてきた。おかげで、それぞれの生息環境に驚くほど巧みに適応し、形も大きさも体色も実に多様な種が生まれた。

カエルの研究が新薬の開発につながる

アマゾン盆地だけでも1000種を超える両生類が見つかっている。この地域のカエルの研究が、新しいタイプの抗生物質や鎮痛剤など、画期的な新薬の開発に役立った事例は多くあり、がんやアルツハイマー病の治療薬の開発につながることも期待されている。

現在知られているカエルの種は、世界中にいる多様な種のごく一部にすぎないと考えられている。その一方で、既知の種はどんどん姿を消している。1970年代以降、最大で200種のカエルが絶滅したとの推定もあり、多くの種が発見されないうちに絶滅するのではないかと、ブルースら生物学者たちは懸念している。

ブルースは取りあえず、この地域の多雨林に今も残されている生物の宝庫を探ることに注力していた。「パイクワでは、これからも数限りなく新発見があるだろう」。ブルースは熱っぽい口調でそう語るが、彼は気づいているはずだ。カエルたちだけでなく、自分にとっても、残された時間は限られている、と。

(文 マーク・シノット[登山家]、写真 レナン・オズターク、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2022年4月号の記事を再構成]

ダイジェストで紹介した記事は、ナショナル ジオグラフィック日本版2022年4月号の特集の一つ、「南米ギアナ高地 最後の秘境へ」です。このほか、声の美しい鳥たちが人気の高まりによって危機に直面している「美しい鳴き声ゆえに」、ウマなどほかの動物を組み合わせたような外見で雄が出産するユニークな魚「不思議なタツノオトシゴ」、日本人研究家やアフリカの人々による沈没船探索などを取り上げています。Twitter/Instagram @natgeomagjp

ナショナル ジオグラフィック日本版 2022年4月号[雑誌]

著者 : ナショナル ジオグラフィック
出版 : 日経ナショナルジオグラフィック社
価格 : 1,210 円(税込み)