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170km内陸の滝の上 マングローブ林がなぜここに

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版

メキシコとグアテマラの国境に近いサンペドロ・マルティル川沿いを調査していた研究チームは、海岸から170キロも内陸の地点で予期せぬ光景に出合った。川沿いのきらめく大きなラグーンに沿って、マングローブの林が広がっていたのだ。

そこは、マングローブ林があるはずのない場所だった。というのも、通常のマングローブ林は、沿岸の限られた区域で、海水と高潮にさらされながら力強く繁殖するからだ。しかし、この場所は標高が9メートルもあるうえ、滝の上流にある。

研究チームが慎重に分析した結果、さらに驚くべき事実が判明した。マングローブ林はおよそ10万年前からこの地に伝わる「生きた化石」だった。すなわち、ここは当時の海岸線だったのだ。現在盛んに議論されている、過去の温暖期の海面の高さを知るうえで非常に重要な手がかりとなるこの発見は、2021年10月4日付で学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された。

「私たちは、失われた世界を1枚の絵にまとめたのです」と話すのは、論文の筆頭著者で、米スクリップス海洋研究所の研究者であるオクタビオ・アブルト・オロペサ氏だ。

隔離されて生き延びた「生きた化石」

マングローブが海岸線以外の場所で生き延びることは不可能ではないが、他の植物との競合には弱い。こう話すのは、ドイツにあるライプニッツ熱帯海洋研究センターのマングローブ研究者、ベロニク・ヘルファー氏だ。「一般に、マングローブ林の繁殖地は潮間帯(満潮時には水没し、干潮時には露出する場所)に限定されています」

今回発見された内陸部のマングローブ林が、海岸線から遠く離れた場所で生き延びてこられたのは、周囲の土壌が、ラグーンや川の水に大量のカルシウムを浸出させ、海水に似た環境を生み出しているおかげだ。

ここにはマングローブだけではなく、優雅なラン、繊細なシダ、ハマベブドウなど、現代のマングローブ林によく見られる植物も生えている。マングローブの根の下の堆積層には古代のカキの殻が埋まっていて、ラグーンのほとりは、海岸にあるような古い砂地や小石で広く覆われている。

マングローブはいつ、どのようにしてこの場所にたどり着いたのか。アブルト・オロペサ氏と同僚は疑問を抱いた。オーストラリアにあるマッコーリー大学のマングローブ研究者、ニール・サンティラン氏によれば、マングローブは急速に遠くまで広がることはなく、生息地に留まる傾向がある。まだ果実が木についている間に発芽する種子は、海面に落ちて短い距離を流され、近くで根を下ろすことが多いという。

まして、マングローブの種子が上流に流されたり、高低差がある滝を上ったりすることはなかったはずだ。したがって、このマングローブ林の祖先は、この場所が海岸だった時代に流れ着いたに違いない。アブルト・オロペサ氏たちは、このように考えた。

仮説を検証するため、研究チームは、このマングローブとユカタン半島沿岸に生育しているマングローブの遺伝子を比較した。「地球上のあらゆる生物の歴史は、それぞれのDNAに記録されています」と、遺伝子分析を担当した米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の生物学者、フェリペ・ザパタ氏は言う。

内陸部のマングローブ林が過去の温暖期に生育し、海面が下がった時に取り残されたのだとすれば、その遺伝子は、現代のマングローブと異なるはずだ。分析の結果は、まさにその通りだった。そして、さらに踏みこんだ研究を行ったところ、最も近い近縁種からも約10万年間隔離されていたことが明らかになった。「古代の世界の生きた化石」であることがわかったと、アブルト・オロペサ氏は言う。

上下を繰り返してきた海面

10万年前、地球の海面は現在よりもずっと高かったとされているが、どれほど高かったかはまだ明らかになっていない。

地球はその不安定な軌道のせいで、誕生以来、大きな気候変動に見舞われてきた。世界の気温もまた、その影響を受けて変化した。

このような気温の変化は、海面の水位にも非常に大きな影響をもたらしてきた。約2万年前のような大氷河時代には、北米大陸は巨大な氷床に覆われ、その範囲は五大湖やロングアイランドまで南下した。南極の氷は現在よりも大規模に広がっていた。

大量の水が氷に閉じ込められるとともに、海面の水位が下がった。冷え切った海は現在よりも小さく、海岸線は今の位置より数キロ遠いこともあった。一方、温暖期には氷が解けて海が広くなり、海面が上昇した。

地球の前回の温暖期(最終間氷期)は、約12万年前にピークを迎えた。当時の地球の気温は、産業革命前の気温と比較すると、セ氏0.5~1.5度ほど高かった。これは、産業革命前の平均気温よりも約1度ほど高くなっている現在と大差ない。パリ協定に署名した多くの国々は、気温上昇を2度未満に抑えること、および1.5度未満に抑える努力をすることに合意している。

「当時の地球の気候は、今とそれほど差はありませんでした」と、米カリフォルニア大学サンタバーバラ校の地質学者で、メキシコ湾の海水面の歴史を研究してきたアレックス・シムズ氏は話す。「そうすると、今後1000年ほどで、地球の海面は5メートル、いや、もっと上昇すると考えるべきでしょうか?」

 そうだとすれば、影響は甚大だ。海面が1メートル上昇しただけでも、主要な都市、経済圏、文化資源がある沿岸の広範な地域が浸水するだろう。現在、平均海面水位から5メートル未満の地域に、約7億7000万人が暮らしている。9~10メートルの水位上昇は、破壊的な影響をもたらすだろう。だからこそ、過去に起きたことを解明できるデータは、将来のリスクをもっと確実に予測するための手がかりとなる。

海面は9メートル上昇したのか

マングローブ林の祖先がこの場所に根を下ろしたのは10万年以上前のことだ。当時の海面水位を把握することは、簡単ではない。

マングローブ林の現在の標高は、先に述べたように9メートルだ。また、調査チームは、複数の地質学上の痕跡にも出合うことができた。近隣住民が海抜約10メートルの場所で井戸を掘った際、地下数メートルの地点に、貝殻と砂の厚い層を見つけたのだ。研究者たちは、この層が以前の海岸の一部であることを確認した。

だが、香港大学の海面水位の専門家、ニコル・カーン氏は、現在の標高9メートルがそのまま過去における海面上昇を意味するわけではない、と指摘する。地球のマントル深くで起きた変化の影響で、この値が実際の上昇分よりも高くなっている可能性があるという。

ユカタン半島一帯は、「氷河性地殻均衡(GIA)」というプロセスの影響を受けている可能性がある。最終氷期に北米大陸を覆ったような巨大な氷床が形成されると、ベッドのマットレスが体重で沈みこむように、その重みで地殻が押し下げられる。沈みこんだ地殻は続けてマントルを押し下げるが、間氷期になって氷床が解けると、押し下げられたマントルがリバウンドでゆっくりと上昇して隆起する場所が出てくる。

ユカタン半島は、その隆起が起きる場所とされている。つまり、以前より海抜が高くなっている可能性があるのだ。最近の研究によれば、近くのカリブ海におけるこうした隆起の影響は数メートルとされている。今回のマングローブ林がある場所が同様の影響を受けているとすれば、現在海抜9~10メートルにあるかつての海岸は、実際にはもっと低かったことになる。

過去の研究成果と合わせて、今回の論文では、当時の海面が今より6~9メートル高かったと見積もっている。これは、最終間氷期における海面上昇規模の推定値としては最大の値だ。

この海面水位については、まだ解明すべき大きな不明点が残っている、とカーン氏は言う。しかし、重要なのは、現在と似通った状況下で、大規模な海面水位の変動が発生するリスクを示す大量のデータが、この研究によってさらに充実した点だ。

「海面水位に関するさまざまな研究から、人類が気候に影響を及ぼす以前にも、海面が現在よりかなり高かったことが明らかになっています。ですから、私たちは、大規模な海面上昇の対策に本腰で向き合わなければならないのです」と、シムズ氏は話す。

(文 ALEJANDRA BORUNDA、訳 稲永浩子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年10月10日付]

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