パソコンに値上げの波 実売価格高止まり、周辺機器も
新型コロナウイルス禍におけるサプライチェーンの混乱は、様々な領域で価格上昇をもたらしている。2022年はガソリンや電気やガスの料金のほか、食料品、文具、家電などで値上がりが見込まれている。
当然、影響はパソコンにも及んでいるが、その実態は捉えにくい。パソコンはもともと価格が「オープンプライス」に設定されていることが多い上に、すぐ新製品に切り替わるからだ。
そこで、全国の主要量販店などのPOSデータを収集しているBCN(東京・千代田)の調査をもとに、パソコンの実売価格を比較。発売後の実売価格やその後の値下がり状況を比較してみた。
スペック変わらず実質値上げ
量販店で売れ筋の15.6型ディスプレー搭載ノートパソコンのなかから、富士通クライアントコンピューティング(川崎市)の「LIFEBOOK AH」シリーズの動きを見てみた。調べたのはCPU(中央演算処理装置)が米Intel(インテル)のCore i7で、メモリー8ギガバイト(GB、ギガは10億)、SSD(ソリッド・ステート・ドライブ)512GBのモデルだ。
条件に合致するモデルのうち、20年7月発売の「LIFEBOOK AH53/E2」は、BCNによると同月の平均実売価格は15万4300円。それが、後継機である「同E3」が発表された同年10月には13万7700円にまで下落。21年7月の平均実売価格は11万2000円なので、発売1年後の下落率は27%だった。
20年10月発売の「同E3」は、発売初月は平均実売価格16万7800円からスタート。CPUが第11世代のCore i7に進化しただけで基本スペックは変わらないのに、スタート価格が1万3500円も上昇している。実質9%の値上げだ。同製品の21年10月の平均実売価格は13万6300円なので、発売1年後の価格下落率も19%にとどまる。
21年10月発売の最新モデル「同F3」はさらに値上がりしている。Windows 11搭載という売りはあるものの、発売初月の平均実売価格は18万7300円と、前年10月発売の「同E3」から11%も上昇している。前年7月発売の「同E2」比だと21%の価格上昇だ。
「同F3」は発売から3カ月たった21年12月でも平均実売価格17万2200円をキープしており、下落率は8%にとどまる。一つ前のモデルの「同E3」が発売3カ月で13%下落したことを考えると価格の落ち方が鈍化している。
同様の傾向は他社のパソコンでもみられる。総じて、新しいモデルほど発売月の価格が高く、その後の価格下落率も小さい。原因はいくつかあるが、半導体不足による部品価格の高騰と物流コストの上昇が大きい。
パソコン以外にも波及
値上げの動きは、パソコン以外にも波及している。
富士通は22年1月7日、パソコンサーバーと一部のオプション製品を2月3日受注分から値上げすると発表した。対象は法人向けのパソコンサーバー「FUJITSU Server PRIMERGY」とその一部オプション製品で、値上げ幅はパソコンサーバーが約10%、オプション製品が約30%としている。半導体不足などで部品価格が高騰していることを反映した。
プリンターも半導体不足の影響を受けている。大手のセイコーエプソンは21年、最大の商機である年末商戦向けの新製品投入を初めて見送った。同社は「部品調達の遅れに伴う商品の供給不足が発生し、製造現場への新商品切り替えに伴う高負荷を避け、商品供給を最優先とするため」と説明している。
プリンターは部品不足を背景に品薄状態が続いており、実売価格も高止まりしている。エプソンの主力インクジェットプリンター「EP-883A」(20年10月発売)を例にとると、BCNのデータでは21年12月時点で平均実売価格2万7900円を維持。前年同月比でわずか6%の価格下落にとどまっている。
前モデル「EP-882A」は19年10月の発売初月の時点で、平均実売価格が2万7900円となっており、その1年後には2万円を切って約3割も実売価格が下がった。コロナ禍の2年間で状況が大きく変わったことが読み取れる。
このほかGPU(画像処理半導体)も値上がり傾向だ。GPUを搭載するグラフィックボードの平均単価は20年10月以降、右肩あがりで上昇。BCNによると、ピークの21年6月には前年同月比の3倍弱にまで値上がりしたという。
パソコンや周辺機器の価格上昇は当面、収まりそうもない。
ジャーナリスト。30年以上にわたって、IT・家電、エレクトロニクス業界を取材。ウェブ媒体やビジネス誌などで数多くの連載を持つほか、電機業界に関する著書も多数ある。
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