
米製薬大手メルクは2021年10月1日、開発中の抗ウイルス薬「モルヌピラビル」について、新型コロナウイルス感染症を発症後の早期に服用すると、入院や死亡のリスクが大幅に減ったという最終治験(第3相臨床試験)の中間結果を発表した。経口薬で新型コロナウイルスに対する有効性が確認されたのは初めてだ。
発症から5日以内の患者に対してモルヌピラビルを1日2回各4錠、5日間にわたって投与したところ、プラセボ(偽薬)を投与した患者と比べて入院する割合が14.1%から7.3%になり、約50%低下した。死亡する割合についても、プラセボを投与した患者のうち377人中8人が治療後30日以内に死亡したのに対し、モルヌピラビルを服用した患者ではゼロだった。
「自宅で簡単に服用できる薬が登場するのは素晴らしいことです。それが薬局で買えるなら、入手できる人も増えるでしょう」と米エール大学ニューヘイブン病院(コネティカット州)の感染症専門医アルバート・ショー氏は言う。なお、氏は今回の研究には参加していない。
現在使用が認められているレムデシビルなどの抗ウイルス薬やモノクローナル抗体薬は、いずれも医療機関で点滴による投与を受けなければならない。新型コロナに対する有効性はモノクローナル抗体薬の方がはるかに高く、入院や死亡のリスクを最大で85%も減少させる。ただし、治療にかかる費用はモルヌピラビルのほぼ3倍だ。
抗ウイルス薬はなぜ効くのか
抗ウイルス薬は、ヘルペスやインフルエンザなど多くのウイルス感染症の治療に使われている。感染者の細胞内でウイルスの複製を妨げることによって病気の進行を防ぐ。
メルク社の新薬は、RNAに似た成分をウイルスのゲノムに送り込むことで、ウイルスの複製時に様々なエラーを引き起こして増殖を妨げる。
ウイルスを増殖させないことが重要なのは、ウイルスが増えるほど細胞が多く破壊され、一般に病状も悪化するからだと、疫学者で米マウントサイナイ病院ダウンタウンネットワーク(ニューヨーク州)の感染対策部長を務めるワリード・ジャベイド氏は説明する。なお、氏も今回の研究には参加していない。