1900年代半ば以降、最初の移住が起こった時期の基準は、独特の石器で知られるクロービス文化が起こった1万3000年前と定められてきた。現在では、人類が米大陸に進出したのはおよそ1万7000年前以降であり、おそらくは内陸部の氷床が解けるより前に通れるようになった太平洋沿岸のルートを南下したのだろうという説が概ね受け入れられている。

しかし、ホワイトサンズの足跡は明らかに人間のものだ。「これはあまりに明白です」と、論文の著者であるアリゾナ大学の考古学者・地質学者のバンス・ホリディ氏は言う。

しかも、ホワイトサンズの足跡は一組だけではなく、2万年より前の人類の活動が複数の層にわたって記録されている。

ホワイトサンズの発掘調査では、何千年もの間に湖岸の泥に刻まれた足跡が何層にもわたって発見された。(PHOTOGRAPH BY DAN ODESS)

年代測定を揺るがす要素も

一部の科学者はまだ、研究チームが入手した足跡の年代の信頼性に疑問を呈している。米オレゴン州立大学の考古学者ローレン・デイビス氏は、放射性炭素の結果を検証する第二の年代測定法の必要性を強調し、硬水効果、あるいは淡水リザーバー効果と呼ばれる現象によって、放射性炭素年代がずれる可能性があると指摘している。

この現象は、ホワイトサンズから見つかったカワツルモのような水生植物が、湿地環境に溶け込んだ物質を取り込むために起こる。もしそれが炭酸塩岩のような「古い」炭素を含む場合、結果として放射性炭素年代が実際よりも古いものになってしまう可能性がある。

一方、陸生植物はこうした影響を受けない。陸生のものは、放射性炭素と非放射性炭素の相対的な量がほぼ一定である大気中から炭素を取り込むからだ。研究チームは淡水リザーバー効果の可能性について検討し、その影響は無視できる程度であるだろうと結論づけている。

別の方法による年代の確認は、一筋縄ではいかない可能性もある。チームはウランを使った方法を試みているが、サンプルが分析に適していなかったと、植物の残存物を調査した米国地質調査所のジェフ・ピガティ氏は言う。それでもチームは現在も、年代の正確さを確認する方法の模索を続けている。

「わたしとしては、この年代がほんとうであれば非常にうれしいです」とデイビス氏は言う。しかし、「シャンパンを開けて成功を祝うのは時期尚早だと思っています」

「探そうとしなければ、見つかりません」

この数字がこれほど注目を集めているのがなぜかといえば、もし最終氷期最盛期に米大陸に人類がいたことが確認されれば、人類がどのようにして新世界にやってきたのかについて、科学的な考え方を根本的に変えなければならないからだ。

「さらに重要なのは、考古学をどのように行うかを考える必要が出てくるということです」とデイビス氏は言う。「なぜなら、現在はだれも2万2000年前の堆積物を調べようとしていないからです」

米コロラド州にあるスタッフォードリサーチ社の地球年代学者トマス・スタッフォード氏によると、過去には、放射性炭素年代測定のために発掘物を送ってきた科学者から、1万3000年前までで分析をやめるよう要求されたこともあったという。そうした厳格なラインを引くことで、さらに古い年代に属する発見が見逃されてしまった可能性もある。「探そうとしなければ、見つけられません」とスタッフォード氏は言う。「だからこそ、遺跡の数も非常に少ないのです」

アルデレアン氏は、ホワイトサンズの研究をきっかけに、現在の科学者や次世代の学生たちが、米大陸における初期人類の動きを見直してくれることを期待している。

「今後は、クロービス文化以前の可能性という話ではなくなると思います」とアルデレアン氏は言う。「これからは、ホワイトサンズ以前、ホワイトサンズ以降という言葉が使われるようになるでしょう」

(文 MAYA WEI-HAAS、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2021年10月01日付]